いまなら占領下の日本を相対化できる〜『日本の黒い霧』

下山事件(シモヤマ・ケース)』を読んでいたときに、まずこれを読むべきと親友に勧められて読んだ一冊(文庫版では二冊)。

松本清張の「社会派」としての評価を決定付けた力作。敗戦・占領の記憶も新しい1960年に、戦後直後に起きた数々の怪事件の本質に迫ろうとした。各章の見出しは以下の通り。

上巻
1) 下山国鉄総裁謀殺論
2) 「もく星」号遭難事件
3) 二大疑獄事件
4) 白鳥事件
5) ラストヴォロフ事件
6) 革命を売る男・伊藤律

下巻:
7) 征服者とダイヤモンド
8) 帝銀事件
9) 鹿地亘事件
10) 推理・松川事件
11) 追放とレッドパージ
12) 謀略朝鮮戦争
13) なぜ『日本の黒い霧』を書いたか

全ての事件の根底に、冷戦下における米国のアジア戦略を見ている清張。事件の「真実」に迫るには至っていないという批判もあるようだが、タブーを恐れず地道に仮説を構築する文章は迫力に富んでいる。

現在、米国がイラクに対して行っていることは、60年前に彼らが日本に対して行っていることと本質的には変わりない。それを目の当たりにしている私達なら、米国に占領され、いまだに米国の影響力の下にいる戦後日本の政策を相対的に眺めることができるのではないか。

この本はいまこそ読まれるべきものだ。

日本の黒い霧〈上〉 (文春文庫)

日本の黒い霧〈上〉 (文春文庫)


日本の黒い霧〈下〉 (文春文庫)

日本の黒い霧〈下〉 (文春文庫)