直木賞受賞作である桜庭一樹の『私の男』を読んだ。以下ネタバレ。
- 作者: 桜庭一樹
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2010/04/09
- メディア: 文庫
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直木賞の選考過程でも、禁忌とされる父子相姦を生々しく描写されていると話題になった。確かにその辺の描写はグロテスクなほどで、生理的に嫌悪感を覚える読者も少なくないのではないかと思わされた。
構成的にも、各章毎に語り手が変わって(これって最近の流行なんだろうか?)、少しずつ真実が見えてくるところが読んでいてスリリングだ。章を追う毎に時間が遡るという仕立てと相まって、ページをめくる楽しみを与えてくれる。
だが、最後まで読み終わって、全くカタルシスを得られなかったのはなぜだろう。主人公の「花」とその父親の関係は世間的には異常であるが、当人同士にとっては必然であり運命だったはずだ。だが、その運命の中心の謎が解けることはなく、どこかはぐらかされた感じで終わる。なぜ花が誕生したのかという肝心のところは結局分からずじまいだった。
そして、この二人の将来はどうなるのかというのも、読者の手に委ねられたままだ。これだけ背徳を重ね、他人の命さえ奪った二人が、何らかの罰を受けるのかどうかもさっぱり分からない。破滅に向かっているのかどうかさえも―
桜庭一樹は抜群に上手くなった。ライトノベルを書いていた頃よりもずっと。だが、異常な共依存の関係があり、その帰結として殺人を犯してしまうというのは、かつての佳作『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』にも共通するところがあり、この点では彼女は何も変わっていない。「世界に二人ぼっちなんて世間が許さない」というような、個人と社会の軋轢を描いてくれるともっと読み応えがあったと思う。