映画

劇中劇の歌舞伎まで凄い~『国宝』(2025年、日本、李相日監督)

吉田修一原作、李相日監督の3作目となる『国宝』。3時間の大作だが、冗長さはなく、映画2本分の内容がぎっしりと詰まっている。まず、吉沢亮と横浜流星のメインキャストが歌舞伎俳優を演じるクオリティがとんでもなく高い。そして、脇を固める、という定型文…

若さに執着することの醜さ~『サブスタンス』(2024年、フランス・イギリス・アメリカ、コラリー・ファルジャ監督)

アカデミー賞授賞式で気になっていた『サブスタンス』がようやく日本で公開された。アメリカの「若さ至上主義」「ルッキズム至上主義」を冷ややかに戯画的に描くのは、いかにもフランス人の監督ならではの視点。主人公は、「老い」ていく現実から逃避して、…

失われた者と残された者の交信の可能性~『片思い世界』(2025年、日本、土井裕泰監督)

『片思い世界』を観に行った。冒頭ですぐにこの作品に仕組まれたギミックを見抜いてしまった。そこから、NewJeansの『Ditto』のMVが連想された。www.youtube.com(以下ネタバレを含む)両者に通底するのは、「既に失われたもの」と「残された者」の間に存在…

サスペンスとして楽しめた~『教皇選挙』(2024年、英米、エドワード・ベルガー監督)

アカデミー賞授賞式で少し気になっていた『教皇選挙』。その後、ローマ法王の逝去により、コンクラーヴェが執り行われることとなり、がぜん現実世界とのシンクロ率が高まったので観に行ってきた。カメラの入れないコンクラーヴェの内幕を描くということだが…

Red Velvet 「Happiness Diary : My Dear, ReVe1uv In Cinemas」

Red Velvet 「Happiness Diary : My Dear, ReVe1uv In Cinemas」を観た。コンサートフィルムと思い込んでいったが、曲間にメンバーへのインタビューを入れるなど、構成はだいぶドキュメンタリー寄り。コンサートを楽しむというよりは、レドベルの10年間を総…

作り手の独りよがりでは~『ナミビアの砂漠』(2024年、日本、山中瑶子監督)

自分は河合優実が好きなんだけれども、これはずっと敬遠してきた作品。今回、Amazonプライムで観られるようになったので、恐る恐る観てみた。 うーん、覚悟はしていたけどかなりキツい作品。身近にこういう人がいて巻き込まれた経験があると余計にキツい。そ…

映画愛あふれる良作~『侍タイムスリッパ―』(2024年、日本、安田淳一監督)

単館上映から口コミで広まり、日本アカデミー賞最優秀作品賞を獲得した『侍タイムスリッパ―』。観始めたらぐいぐいと引き込まれて、予想を超える展開に手に汗を握るエンディング。脚本が素晴らしいのはもちろん、どの登場人物にも厚みがあって、しかも俳優も…

エンタメとして楽しめる~『白雪姫』(2025年、アメリカ、マーク・ウェブ監督)

このところアメリカで炎上しまくってるディズニーのリメイク映画の中でも、本作はかなり前評判が部類だ。いくつか要因はあるだろう。・White(白人)でない白雪姫 ・王子のキスでハッピーエンドというプロットの否定 ・タイミングとしてミュージカルもののウ…

『366日』嘉陽田親子 舞台挨拶~中島裕翔・稲垣来泉@丸の内ピカデリー

『366日』で父娘(※血のつながりはない)を公演した中島裕翔・稲垣来泉の舞台挨拶を見に、丸の内ピカデリーへ。チケットぴあで2枠エントリーし、確率2倍も行使したが、チケット抽選に落選。その後、友人のサポートも得ながら、リセールでチケットを確保。行…

原作ミュージカルファンにはうれしいが裾野は広がらなさそう~『ウィキッド ふたりの魔女』(2023年、アメリカ、ジョン・M・チュウ監督)

人気ミュージカルの『ウィキッド』の映画版がようやく日本で公開された。個人的にも大好きなミュージカルの一つで、数えてみるとニューヨーク(3回)、ロンドン(1回)、東京(3回)、大阪(1回)と四都市で観覧していた。映画化の話は10年くらいまえから聞…

SFではなく恋愛ファンタジー~『ファーストキス 1ST KISS』(2025年、日本、塚原あゆ子監督)

予告編を観たときは、タイムリープを繰り返してバッドエンドではない分岐を求めるという「ゲーム的世界観」と思っていた。愛する人を救うために何度もタイムリープを繰り返すという2011年の「シュタインズゲート」や「魔法少女まどかマギカ」みたいな。だが…

全体的に「置きに行った」感~『キャプテン・アメリカ:ブレイブ・ニュー・ワールド』(2025年、アメリカ、ジュリアス・オナー監督)

ファルコンだったサム・ウィルソンがキャプテン・アメリカとなった。黒人キャップというポリコレ要素を軸に、暴走する大統領、資源を巡る国際紛争など、ある意味で「分かりやすい」プロットの連続。時間も2時間に収まっていて、終盤のどんでん返しなんかもな…

齋藤潤の輝き~『カラオケ行こ!』(2023年、日本、山下敦弘監督)

また綾野剛がやくざの役かよーと言いたくなるキャスティングだが、実質主人公の齋藤潤がとにかく良い。ストーリーは、コメディタッチを交えつつ、合唱部部長の中学生とやくざの交流を描く。やくざにシンパシーを抱いて道を踏み外すことがないようにという老…

古典を新世代に普及させるきっかけとして~劇場版『ベルサイユのばら』(2024年、日本、吉村愛監督)

『ベルサイユのばら』、もう古典中の古典という感じ。1979年のテレビアニメということでは(奇しくも)ファーストガンダムと同年。新作は作画的にキャラの線の細さを感じるところもあるが、映像が精細。構成はストーリーよりは音楽中心で、ソロやデュオで人間…

IUコンサート「THE WINNING」(ScreenX上映)

IUコンサート「THE WINNING」が2週間限定で劇場上映。側面スクリーンのあるScreenXがよさそうなので、TOHOシネマズ池袋に観に行ってきた。去年横浜アリーナ2daysに申し込んだのだが、かすりもせずに落選。念願のコンサート鑑賞となった。いや、IU。かわいく…

泣けも笑えもしなかった~『366日』(2025年、日本、新城毅彦監督)

HYの名曲『366日』を軸に作られた恋愛映画!デートムービー!・・・のはずなのだが、最初から最後までノれずに唖然としたまま見ていた。憧れの先輩はどこがいいのか分からないくらいウジウジしているし、ヒロインは何を考えているのか分からない。もちろん俳…

エンタメではなくドキュメンタリー~『オッペンハイマー』(2023年、米国、クリストファー・ノーラン監督)

アメリカでの高評価と裏腹に、核兵器という題材そのものや、被爆地の描写がないという扱い方が物議を醸し、日本での興行は失敗に終わった『オッペンハイマー』。Amazonプライムで観られるようになったので、少し距離を置きつつ観てみた。最初はこのアメコミ…

宇宙戦争からファイトクラブへ、そしてプラモからカードへ~『機動戦士Gundamジークアクス』(2024年、日本、鶴巻和哉監督)

「余分な情報が入る前に見たほうがいい」というSNSでの反響を見て、早めに見る方がいいと思って『機動戦士Gundamジークアクス』を見てきた。確かに(笑)ネタバレ厳禁とまでは言わないが、確かに余分な情報がない方がサプライズがあって楽しめる。以下は、自…

現実と虚構の間で露わになる自我<エゴ>~『敵』(2023年、日本、吉田大八監督)

昨年2024年の第37回東京国際映画祭に出品され、グランプリ、最優秀監督賞、最優秀男優賞を獲得した『敵』が公開になったので早速観に行ってきた。筒井康隆の原作を吉田大八が鮮やかに映像化したもので、これは確かに凄い作品。現実と虚構の間を行き来するこ…

昭和は不適切だったのか~Netflix『阿修羅のごとく』(是枝裕和監督)

『阿修羅のごとく』と言えばNHKドラマ版の挿入歌のトルコ音楽。www.youtube.comメフテルの「ジェッディン・デデン」という曲というのを知ったのはだいぶ後のこと。ドラマのクライマックスで突然流れる演出はしばしば「怖い」と感じさせるほどドラマティック…

山田杏奈が神々しい~『早朝始発の殺風景』

『早朝始発の殺風景』を鑑賞。通り魔事件の犯人探しというメインストーリーの合間に1話完結の謎解きのサイドストーリーのオムニバスが挟まれる構成。やろうとしていることは分かるものの、メインストーリーとサイドストーリーの関係が全然なく、人物間のつな…

オリエンタリズムな視線を拭えず~『山女』(2023年、日本、福永壮志監督)

18世紀の貧しい東北を舞台とした作品。自分の指向的には山田杏奈主演でなかったらまず見ないタイプの映画。「山男」の民間伝承だったり、天候不順に対する祈祷だったり、生娘を生贄とする風習だったり、いろいろな意味であまり見たくないものが描かれる。陰…

トータルでドラマ版には及ばず~『正体』(2023年、日本、藤井道人監督)

亀梨和也主演のドラマ版を横浜流星主演で劇場版とした『正体』。全体のプロットはだいたい同じような流れ。ドラマ版と比べるとロケ地の撮影などの映像などにはお金がかかってそうだが、ストーリーがかなり駆け足で人間関係の描写も浅くてちょっと残念。警察…

コラージュのような構成が悪い方に転んだ~『推しの子- The Final Act-』(2024年、日本、スミス監督)

8話まで配信された実写版『推しの子』の完結編『推しの子- The Final Act-』を観に行った。 配信ではカミキヒカル登場というところで終わったので、そのあとのカタを付けに行く展開を詰め込んだ。過去と現在、現実と創作を行き来しすぎていたコラージュのよ…

役所広司の演技は素晴らしい~『Perfect Days』(2023年、日独、ヴィム・ヴェンダース監督)

東京の公衆トイレのPVというのがもともとの企画の原点。監督に大御所のヴィム・ヴェンダースを迎え、主人公にこれまた大物の役所広司を据えるという豪華仕立て。主人公のミニマルでストイックな日常を描く前半は、作品の趣旨からすると理解はできる範囲ギリ…

俳優がかわいそうになるレベルの駄作~『シビル・ウォー アメリカ最後の日』(2024年、英米、アレックス・ガーランド監督)

某映画評論家が推していた『シビル・ウォー アメリカ最後の日』。Amazonプライムビデオで無料で観られるようになったので観てみた。ひどい。分断され内戦状態のアメリカ合衆国という今日的な問題を取り上げながら、このひどさ。なぜ内戦が始まったのかも、大…

刺さった~『ルックバック』(2024年、日本、押山清高監督)

藤本タツキの読み切り作品『ルックバック』の劇場アニメ。一時間に満たない尺の中で、青春・自我・友情を描き上げる。刺さった。多くの人が絶賛していたのも分かる。クリエーターの持つ作家性を中心に描いたものがこれだけ支持されるのは凄い。と同時に、ア…

渾身のドキュメンタリー~『どうすればよかったか?』

『どうすればよかったか?』を観に東中野ポレポレへ。本作品の監督の藤野知明が、統合失調症を発症した姉と両親を20年にわたって記録。凄い。20年越しのドキュメンタリーの持つド直球の説得力。両親は研修者で、姉は医学部に進学している中、監督がそういう…

最後のパートがよかった~『怪物』(2023年、日本、是枝裕和監督)

『万引き家族』『ベイビー・ブローカー』がどうも自分に合わなかったので、『怪物』は劇場には観に行かずにいた。今般、Amazonプライムビデオに来たため、「一応チェックしておくか」くらいのテンションで観始めたが、終盤に思いがけず引き込まれた。(以下…

経済ドラマは「悪」の側から描く方が面白い~『地面師たち』

昔流行ったNHKのドラマ『ハゲタカ』の投資ファンドだったり、マネー・ローンダリング事業に巻き込まれる『オザークへようこそ』だったり。やっぱり経済ドラマは、「裏」「闇」をそちらの側から描く方ががぜん面白い。他方で、『半沢直樹』みたいに、倍返しの…