エンタメではなくドキュメンタリー~『オッペンハイマー』(2023年、米国、クリストファー・ノーラン監督)

アメリカでの高評価と裏腹に、核兵器という題材そのものや、被爆地の描写がないという扱い方が物議を醸し、日本での興行は失敗に終わった『オッペンハイマー』。

Amazonプライムで観られるようになったので、少し距離を置きつつ観てみた。

最初はこのアメコミのヒーローじみたビジュアルが、苦悩しつつも「戦争の早期終結」という使命を果たすという気負いに見えた。

だが、実際にはそうではなかった。

科学者としての探求心がやがて政治に利用され、そして翻弄されていく。

そんな大きなうねりの中で不安や後悔に苛まれる個人を描いた作品。

しかし、エンタメ性は乏しい。

まず3時間という時間の長さ。

Amazonで数回に分けて試聴したからいいけれども、これは映画館だったら冗長だと感じて耐えられなかったかもしれない。

そして構成。

時間があっちにいったりこっちにきたりは当たり前。

視点さえも人物を入れ替わる。

そのことで奥行きが出る面はあるのだが、どこに焦点を当ててみればいいのかが分かりにくい。

さらに、このオッペンハイマーという人物が、歴史上の偉人であるにもかかわらず、ヒーロー的なカリスマ性を感じさせない。

キリアン・マーフィーが演じているからギリギリ我慢できたけど、他の俳優だったら醒めていた。

と、けっこうなハードルがあるものの、終盤にはこの作品にぐっと引き込まれた。

それは、アメリカのポリティクスというか、政治のドロドロはやっぱり「ひどいね」と言いながら目が離せないんだよね。

ある種の対岸の火事のドキュメンタリーというか。

いや、実際には焼かれたのは太平洋のこちら側の我々なんだけれどもね。

そんなアメリカの海千山千の政治プレイヤーたちに翻弄されつつも、彼なりに筋を通して生き残るというオッペンハイマーの生き様は、「なるほどねえ」と唸らされるものがある。

「正義は勝つ」みたいに単純に終わらないところも良かった。

ノーランはどんどん「非エンタメ」に向かっているように感じていたけれども、この作品はその極地かもしれない。