芥川賞を愛していた島田雅彦

芥川賞は死んでいる。少なくとも僕にとっては。村上春樹島田雅彦に賞を与えなかった時点で。

いまだにこんな賞を有難がっているのは、旧態依然としたマスメディアだけかと思っていた。選考委員の高齢化とともにセンスがずれていって、そのうちに社会的意義は自然消滅するのではないかと思っていた。だが、島田雅彦にとってはそうではなかったようだ。

島田雅彦芥川賞の選考委員になる。どういうつもりだろう。言い方は悪いが、「どのツラ下げて」選考するのだろうか。6回も落選させられたのに。そのうち5回が「該当作なし」という仕打ちだったというのに。

島田のコメントは「いわく付きの男が加わることで選考が面白くなる、という主催者の考えに合意した」とのこと。何だそれは。

「おもしろき こともなき世を おもしろく」と辞世の句を詠んだのは高杉晋作だが、島田は「おもしろき こともなき賞を おもしろく」ということか。まだ辞世にはだいぶ早いだろうに。

結局のところ、島田雅彦にとっては芥川賞はいまだにブランドであったということだ。そして、自らが乗り込むことで「活性化」したり「再生」したりすることで貢献したいということであれば、これは愛の表明に他ならない。愛されなかったというのに。島田雅彦芥川賞への愛。そんなものは見たくなかった。

日本文学振興会は12日、作家の島田雅彦さん(49)を芥川賞選考委員に加えると発表した。島田さんは1983年の「優しいサヨクのための嬉遊曲」以来、芥川賞で最多となる6回の落選を経験し、同賞を受賞していない。芥川賞未受賞の選考委員は現在、黒井千次さんと山田詠美さん(直木賞を受賞)がいる。
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