挑戦を止めない谷川流―『涼宮ハルヒの分裂』

涼宮ハルヒの分裂』を読んだ。いま読む理由は、ひとつ。続編にして完結編の『涼宮ハルヒの驚愕』がもうすぐ発売になるから。

涼宮ハルヒの分裂 (角川スニーカー文庫)

涼宮ハルヒの分裂 (角川スニーカー文庫)

もともと続きを待たされる状況で本を読むのはあまり得意ではない。『分裂』はなんとなくそんな匂いがしていた。そして、実際に読者は4年も待たされたのだ。ライトノベルにしては異例のこと。まして人気シリーズであればなおさら。この4年間にアニメの2期はオンエアされるし、映画も公開された。それを挟んでの『驚愕』の刊行は、どうしても時期を逸した感がぬぐえない。メディアミックスの角川らしくない。

だが、これだけ待たせたのだから、谷川流はきっと相当に周到な仕掛けを用意したに違いない。この『分裂』を読むだけでも、その片鱗が窺える。ハルヒ(神)+長門(宇宙人)+みくる(未来人)+古泉(超能力者)+キョン(?)というメンバーに対抗するかのように現れた勢力。そして、彼らの登場と歩調を合わせたかのように、αとβに分裂する世界。多重世界の中で運命に翻弄されるSOS団は、はたして平和を保てるのか。といったところ。

普通なら読者の頭の中が混乱するような設定だが、さすが谷川流のSF小説家としての手腕はお見事。現実離れしたストーリーを違和感なく読ませてくれる。そして、多重世界の描写という新しいことに挑戦している。
文体も見事だ。アニメ化の効果もあるのだろうが、どの文章を読んでも杉田智和の声で再生され、すっと頭の中に入ってくる。この辺は、アニメのスタッフや、声優の力量ということもあるのだろうが、著者の実力が伴っていないとできることではない。ほぼ5年ぶりにハルヒを読む僕にも、すんなりと作品世界に入っていけた。これ、面白い、と。

個人的にはここまで読まされて続編を長い間待つのは辛すぎる。ということで、25日発売の『驚愕』を早く読みたい。噂ではいとうのいぢの絵が結構変わってしまったらしいがどうなんだろう(先日の「絵師100人展」でもテイストが違うと思ったけど)。