もしも現実がループしたら―乾くるみ『リピート』

ループ系とミステリは相性が悪いのではないか。SF設定でやや荒唐無稽な時間ループと、事実の積み重ねによる緻密な推理を楽しむミステリは、水と油のように思える。だが、この小説はその組み合わせで書かれている。

「リピート」―それは、現在の記憶を保ったまま過去の自分に戻って人生をやり直す時間旅行のこと。様々な思惑を胸にこの「リピート」に臨んだ十人の男女が、なぜか次々と不可解な死を迎えて…。独自の捜査に着手した彼らの前に立ちはだかる殺人鬼の正体とは?あらゆるジャンルの面白さを詰めこんだ超絶エンタテインメントここに登場。

これ以上は何を書いてもネタバレになりそうなので控えるが、なるほどこれは面白い。いままで読んだことのないタイプの作品だ。序盤はおなじみのループものの説明だが、中盤からの意外な展開と、終盤でのどんでん返しは、ミステリ読者が期待する水準を十分に満たしている。

そして、本書(文庫版)の隠れた読みどころは、巻末の大森望の解説だろう。『時をかける少女』や『ひぐらしのなく頃に』『School Days』等を引き合いに出してループ系について論じている。その引用は、東浩紀の『ゲーム的リアリズムの誕生』にも及ぶ。まあ、そりゃそうか。

”リセットを可能にしたとたん、実人生もエロゲー化する”という皮肉をリアルに描いた本当はおそろしい青春小説だとも解釈できる。
大森望の解説より)

なるほど。「リアルなんてクソゲーだ」という名言があるが、その反対にリアルがエロゲー化してループするっていうのも、実際に起きたらろくなもんじゃなさそうだ。

著者の乾くるみは、静岡大学理学部数学科卒業。最近ぐっと増えたように感じる理数系の作家。ちなみに男性。

リピート (文春文庫)

リピート (文春文庫)