私なのかあなたなのか−『ブラック・スワン』

Is it me? Is it you? Behind the mask, I ask.
Is it me? Is it you?  Who wears another face?
("Behind the Mask" Yellow Magic Orchestra Behind the Mask)

自分がしているのが、誰かがしているのか。まるでわからなくなる。しまいには、自分が何者であるかも―
ナタリー・ポートマン主演の『ブラック・スワン』を観た。

公式サイト:映画『ブラック・スワン』公式サイト

主人公のニナは『白鳥の湖』の主演に抜擢され、プレッシャーで徐々に精神を壊していく。母親も、ライバルも、相手役も、指導者も、心を許すことができない存在に見えてくる。何が幻覚で何が現実かもあいまいになる中で襲う恐怖。自分自身でさえも不確かなものになる中で開演日が迫る。

これ以上はネタバレになるので避けるが、ナタリー・ポートマン渾身の役作り。身を削るような。燃え尽きるような。十分な予算が集めらなかったことを感じさせる映画ではあるが、一人で気を吐くような演技が素晴らしい。アカデミー賞主演女優賞の受賞もうなずける。

ライバル役のミラ・キュニスは、若き日のアンジェリーナ・ジョリーを彷彿とさせる奔放さとセクシーさで、ナタリー・ポートマンと好対照を成す。この二人のライバル関係が、主役の座をめぐるサスペンスを盛り上げている。

ナタリー・ポートマンはもう見るからにストイックで努力家の清純派で、この作品のニナとかなりイメージが重なる。ただ、清純派なだけで終わらないところに、この作品の最大の見所があり、その演じ分けの見事さは、ナタリー・ポートマンの天才たるところだろう。『レオン』で世界を驚愕させた演技力は伊達じゃない。

映画自体は、小品のホラー・サスペンスといった味わい。幻覚と現実の境界が不確かになるところは『裸のランチ』を思い出させた。精神的に余裕のないときに観ると、ダークパワーに取り込まれるかもしれないが、精神の歯車が狂っていく感覚の映像・音響での描写は相応に観応えがある。