ヘヴィなライトノベル〜『終わりのクロニクル(1)』

電撃文庫の中では硬派な雰囲気を漂わせる川上稔AHEADシリーズ終わりのクロニクル』の(1)を読了。上下巻合わせて800ページを超え、京極夏彦張りのボリューム。


このシリーズは、大雑把に言えばパラレルワールドものなのだが、平行世界の数を10個に限定し、各世界の特徴を詳細に描写している。その中で、平行している世界間の干渉、そこから起きた戦争を踏まえて、各世界の間で戦後処理の交渉である「全竜交渉(レヴァイアンサンロード)」を行うというもの。

筆者の問題意識は、第二次世界大戦後の日本および世界のあり方を問うものであろう。主人公の佐山・御言のキャラクターは、偽悪的な部分を見せながらも強い使命感に裏打ちされていて、多様な価値観の中で混迷する現実の政治家に対する痛烈な皮肉となっているように見える。

序章の(1)では、文字が力を持つ1st-GEARという世界と、私達の世界(Low-GEAR)の交渉と講和を描いている。崇高な理念を掲げて、妥協や打算を排する佐山の姿勢にしびれる。このシリーズは(7)まで続いて既に完結しているが、ここまで広げた大風呂敷をどうやって畳んでいくのかも楽しみ。

イラストのさとやす(TENKY)の作風が、微妙に小説の雰囲気と合っておらず、表紙で「食わず嫌い」を招いているような気がするのが惜しい。

ヘヴィーなライトノベルという自己撞着を含んだ作品だが、最後まで読んでみよう。