新潮文庫の新刊になっていたので、思わず『下山事件(シモヤマ・ケース)』を買った。著者の森達也氏は、オウム真理教等の取材も行ったことのあるジャーナリスト。
- 作者: 森達也
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2006/10/30
- メディア: 文庫
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初代国鉄総裁が常磐線で轢死したというこの怪事件の真相は、この本を最後まで読んでも明らかにならない。共産主義者のテロなのか、占領軍の意向を汲んだ秘密機関によるものなのか、共産党に罪をなすりつけようをした右翼組織の暴走によるものなのか。結局のところ、全ては藪の中だ。
ただ、下山総裁が自殺ではなく、他殺であるということは疑いの余地のないものだということが分かる。いずれにしても、下山事件について知りたいのであれば、この本より先に、たとえば松本清張の『日本の黒い霧』等の先達の残した作品を読むべきだと思う。
しかしながら、この本ならではの面白いところがあるとすれば、それは、現在のマスメディアのどうしようもない姿を描いている点だ。取材の過程でTBSの「報道特集」が合流してこようとして強引な撮影でインタビューをぶちこわしにするさまや、その後「週刊朝日」と共同で取材しようとしていたら、一方的に記事を発表されたさまなど、いわゆるマスコミの裏事情が垣間見れる。
著者は、こうした大衆に迎合しようとするメディアの姿勢が、明治以降の日本の歴史を作ってきたのではないかと主張している。その点については、私もだいたい似たような意見だ。