近未来的リアリティ〜『スワロウテイル人工少女販売処』

籘真千歳の『スワロウテイル人工少女販売処』を読んだ。『文学少女』シリーズの竹岡美穂の表紙に惹かれたのは、まあ一応内緒。

スワロウテイル人工少女販売処 (ハヤカワ文庫JA)

スワロウテイル人工少女販売処 (ハヤカワ文庫JA)

内容は以下。

〈種のアポトーシス〉の蔓延により、関東湾の男女別自治区に隔離された感染者は、人を模して造られた人工妖精(フィギュア)と生活している。その一体である揚羽(あげは)は、死んだ人工妖精の心を読む力を使い、自警団(イエロー)の曽田陽介と共に連続殺人犯"傘持ち(アンブレラ)"を追っていた。被害者の全員が子宮を持つ男性という不可解な事件は、自治区の存亡を左右する謀略へと進展し、その渦中で揚羽は身に余る決断を迫られる――苛烈なるヒューマノイド共生SF

男女が別の自治区で暮らしていて、パートナーがフィギュアというのは近未来的なリアリティを感じさせる世界。この世界の中で不可解な事件が発生し、それを調べる中でさらに大きな謎が…という筋立てだが、SFであるにもかかわらず、あまりセンス・オブ・ワンダーの感覚は得られなかった。まあ、それもリアリティゆえか。

登場する揚羽というキャラクターもなかなかに魅力的で、外見や、しゃべり方、立ち居振る舞いが十分に想像できる(素晴らしい表紙絵のおかげでもあるだろう)。アニメ的というか、ラノベ的というか。彼女の魅力こそがこの作品の物語の中心であることは間違いない。

だが、揚羽という人物が物語を推進する一方で、語り手自身の力量はいまひとつ。プログラマ出身の著者の紡ぐ文章はそれなりに個性的ではあるが、形式的な技巧に走っているところも目立ち、全体としては切れ味は少ない。冗長で読みにくいところも目立つ。もう少し歯切れよく、てきぱきとしたテンポで書かれていれば、この物語の世界にさらに入りこめたのにと思う。

このあたり、早川書房書き下ろしで、それなりに厚いページを用意しているのだから、編集者はもう少しブラッシュ・アップに協力できなかったのだろうか。