ラノベ風味のミステリ―『ビブリア古書堂の事件手帖―栞子さんと奇妙な客人たち』

栞子さんは俺の嫁―

ということで、2012年早々個人的にはかなりの掘り出しものだった。

北鎌倉の古書店「ビブリア古書堂」をめぐって繰り広げられるさまざまな事件を、店主であり本好きにして極度の人見知りである栞子さんが、安楽椅子探偵(アームチェア・ディテクティブ)さながらに、病院のベッドから真相を推理するという短編・連作集。

狂言回しの主人公は、就職が決まらずにふらふらしている「本嫌い」の五浦大輔。この主人公設定からして20〜30代の男性がメインターゲットであると推察されるが、本好き、ミステリ好きであれば、性別関係なしに幅広い層が楽しめる。取り上げられる本は以下の通り。

夏目漱石 『漱石全集・新書版』(岩波書店
小山清 『落穂拾ひ・聖アンデルセン』(新潮文庫
ヴィノグラードフ・クジミン 『論理学入門』(青木文庫)
太宰治 『晩年』(砂子屋書房

頭脳明晰ながら恥ずかしがりやの店主・栞子さんの人物造形も丁寧だし、各話でスポットライトのあたる「古本」についての薀蓄の読み応えがある。それだけでなく、各話の登場人物が意外な形で有機的につながり、本書全体を読み通したときに、より楽しめるという構成になっている。五浦と栞子さんの物語をもっと読みたい―そんな風に思わせるエンディングになっている。

ライトノベル風の安楽椅子探偵モノいうと、去年の本屋大賞を獲得した『謎解きはディナーのあとで』が思い起こされる。あの作品については、人物造形の浅さや、会話の語彙の下品さ、事件の人間味の乏しさが気になった(あくまで個人の感想)。が、こちらの作品は、いずれの点でも十分に鑑賞に堪えるものになっている。活字作品としてはもちろん、アニメ化、実写化されてもおかしくないレベル。

と思っていたら、同封の読者アンケートで、栞子さんと五浦のイメージに合う俳優・タレントを問う項目が。なんだ、実写化する気満々ではないか。さて誰がいいだろう。