300万部が8%-TV屋はそろそろ良作の消費をやめるべき

「ビブリア古書堂」シリーズのTVドラマ化については、半年近く前のエントリー「なぜ木村文乃にしなかったのか―『ビブリア古書堂の事件手帖』」で、原作イメージに合わないキャスティングについて懸念を表明した( なぜ木村文乃にしなかったのか―『ビブリア古書堂の事件手帖』 - SHARPのアンシャープ日記)。

自分の中で原作のイメージが侵食されるのを避けるためにTVの情報は遮断していたが、先月、放送が終わった。結果は予想通りだった。

剛力彩芽主演のフジテレビ系“月9”ドラマ「ビブリア古書堂の事件手帖」の最終回の平均視聴率が8.1%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)だったことが、分かった。

まず明らかにしておくと、特定のタレントがゴリ押しされていることを嘆いたり、そのタレントに好感を持てないなどということを言いたいのではない。

「フジテレビ」とか「月9」という冠には何らのブランド価値もないが、300万部を越えるベストセラーを原作にしたものが、視聴率8%というのは、TV屋の論理からしても「失敗」であるとおもわれる。では戦犯は誰か。

番組の小原一隆プロデューサーも「篠川栞子という2次元のキャラクターに良い形で息吹を吹き込んでくれると思い、オファーさせていただきました。彼女にとってはこれまでには演じたことのない役どころで、 女優としての新たな一面を見せる挑戦でもあると思います」と期待を寄せる。

2次元のキャラクターに息吹を吹き込むどころか、本来のキャラクターと違うイメージを植えつけた小原プロデューサーの罪は重い。オスカープロモーションとの関係などの裏の事情を隠してのことか、それとも真剣に「栞子をショートカットにすることで新しい息吹を吹き込める」と確信したのか分からないが、いずれにせよ、結果として生じた失敗への責任はとるべきであろう。

しかし、このような「何か良さそうな原作を利用」→「テキトーにTV化/映画化して一儲け」みたいな形が目につきすぎる。

  • 「海猿」(実写映画化)

僕は海猿の原作者だけど、映画の2作目が公開された時、もらったお金は250万円くらいだった。 70億ヒットとか言われても関係ない。 (今は交渉してしっかりもらってる) 漫画家はいい様に利用されていて、それでも映画化されると喜ばなきゃいけない。なめられてると思う。

「映画の興行収入は58億円だったが、原作使用料は約100万円だった」「映画がいくらヒットしても私自身は全然儲からなかった」「1ページ2万円弱の原稿を描いてたほうがまだ儲かる」

汐璃のキャラクターを構築した松橋真三プロデューサーが配役を考えた際、最初に思い浮かんだのが剛力で、「強い瞳を持ち、少年のようなショートヘアが、運命を背負い男装して生きる汐璃にピッタリ」とオファー。これに「一気に読んでしまった」というほど原作にハマった剛力が快諾し、人生初の男装役が決まった。

  • 「悪の華」(アニメ化)

簡単に言うと実写トレースですね。まず実際の人間に演技してもらって撮影して、それを1コマ1コマトレースして、アニメに起こす、という技法です。当然ですけど人物の造形や動きが、ものすごく写実的に描かれるんですよ。TVアニメでやるには珍しいやり方で手間もかかりますし、制作会社がOK出すかどうかはわかりませんでしたが、それなら原作とはまた別なものとして、視聴者に受け入れられるんじゃないかと。


以上、目についたものをざっと挙げるに留める。探せば他にもありそうだ。もちろん、中には、コンテンツの原作者に正当な対価が払われたり、原作コンテンツへの愛をもった製作者がTV化・映画化したものもあるかもしれない。だが、このように良作を安易に消費するTV屋の方法がいつまでも続くとは思えない。そのうち、原作者はTV屋にコンテンツを供給しなくなるだろう。佐藤秀峰氏のように。

以下蛇足。TV屋の権化のような某氏は「クールジャパンのためにクリエーターは無報酬で」などと政府会議の場で言ったらしいが、TV屋の論理を公の場で持ち出してしたり顔をするのはいい加減やめるべき。というか、そもそもそんな人に意見を求める政府の側にも大いに問題がある。