貞本エヴァは僕を切なくする

少年エースで連載中の『エヴァンゲリオン』の第10巻が発売になった。第9巻の発売が2004年4月だから、ほぼ2年振りということになる。

新世紀エヴァンゲリオン (10) (カドカワコミックスAエース)

新世紀エヴァンゲリオン (10) (カドカワコミックスAエース)

だが、これをもって単なる遅筆だと断じては、この作品の本質を見誤る。というのは、貞本エヴァでは、TV版で駆け足で流されていた登場人物の心理が、実に丁寧に描かれているからだ。使徒の精神攻撃の結果、自分の「感情」を初めて意識して涙を流しながら死んでいく綾波綾波の死を目の当たりにして呆然自失となり、そのPTSDによってしばしば過呼吸に陥るシンジ。そんなシンジに間近で接しながらも、どうしても理解できない「愛」について理解しようと努めるカヲル。

壮大な陰謀の前では、個人など利用されるだけのちっぽけな存在に過ぎない。ヒーローなんかいない。たとえエヴァに乗る能力があっても、大切に想う人を救うことなんてできない。それどころか、もちろん自分自身を救うことも。そして、理解されないという孤独。誰もが、誰にも埋められない隙間を自分の中に抱えている…

エヴァは、TV放映から10周年となるのだが、時を同じくして始まったこのマンガがまだ完結していないというのは、ある意味で驚くべきことだろう。だが、Zガンダムがアニメ放送から20年を経て「新訳」の映画で完成を見たように、貞本エヴァも長い時間をかけて「誰も知らないラスト」を創り上げるのかもしれない。そう考えると、10年というのは、決して長過ぎる歳月とは言えない。