少女歌劇団ミモザーヌ 夏公演 「~魅惑のバラエティショウ~ Summer Collection 2023」

少女歌劇団ミモザーヌは、8月5日・6日に東京・草月会館にて、8月12日・13日に大阪・YES THEATERにて、夏公演「~魅惑のバラエティショウ~ Summer Collection 2023」を行った。

ミモザーヌのお披露目は、コロナ禍の2020年11月、なんばYES THEATERでの生配信だった。そして、2023年8月。同じ劇場で、1期生から5期生までの22名のメンバーによる公演が開催された。今度は有観客。そして「声出し解禁」。

産声をあげてから3年。

少女歌劇団ミモザーヌは、2023年の夏公演で初めてその本来の姿を見せたといってもいいだろう。

第一部

1. Proud Mary

ティナ・ターナーに敬意をもって」
まずイントロのその言葉に驚かされた。数多くのヒット曲を生み、多くの賞を受賞し世界的エンタテインメントのトップクラスと言えるティナ・ターナー。今年亡くなった彼女の楽曲をカバーすることでこの公演にかける意気込みが伝わってくる。ついに声出しが解禁され、客席とのコールアンドレスポンスも圧巻のオープニング。

2. ストレンジャーpart4

赤のスパンコールの大人っぽいワンピースで登場するトリオが奏でるおなじみのジャジーなナンバー。「今回はどのメンバーだろう?」と想像するのも楽しみの一つ。この夏公演では、いわむらゆきね・ちばひなの・しろみゆの3人という意外感のある組み合わせ。この後の物語を紹介する3人の歌詞と台詞に、静かに「少女歌劇団ミモザーヌ」の世界に引き込まれていく。

3. 物語の始まり

暗転した舞台に最初に現れる妖精たち。みやはらにこ・たなかあかり・すずきよりほサベーラの3人。バレリーナのように美しく踊り、華麗なアクロバットを舞う。
そこに天上の世界から登場する白天使たかはしまお、黒天使ともだりのあ。幻想的な3拍子のリズムで「あ~夢 あ~夢 ああ夢よ」と二重唱を奏でる。幻想的な姿と歌声は人間界を超越した存在だと感じずにはいられない。

4. Want To Be Evil

続いて登場するのは、いまもりまなか演じる思春期の少女。「このまま親の言うことを聞くいい子でい続けていいのか」という思春期の悩みを心の中に抱えている。
そんな彼女の内面の葛藤に寄り添うように奏でられるジャズの名曲。英語の歌詞を歌い上げるいまもりまなか、そして英語の歌詞を日本語に置き換えたり、ツッコミを入れたりしていくみやはらにこの二人の掛け合いが絶品。

5. されど空の深さは

夜の路地裏にたむろするのは、「いい子」になれずに行き場を求めてさまよう少女たち。若さのはけ口を探しているのか、心を通わせることができる友を求めているのか、自分の本当の姿を見つけようともがいているのか。R&Bのバイブスに合わせながら何かを探るかのように身体がリズムを刻み、心の叫び声がまるで遠吠えをする犬のように哀しいメロディを奏でていく。

6. 群青

前回の公演からフラメンコをパフォーマンスに取り入れたミモザーヌ。今回はラテン歌謡の雰囲気を入れながら、思春期の少女たちの内なる情熱をボーカルとダンスのパフォーマンスとして昇華し、自己表現を通じて他者とのコミュニケーションを成立させる場面で重要な役割を果たしている。いまもりまなかを中心に学校制服の群舞で演じるという表現も斬新。

7. もうイヤだな

行き場を求めてさまよう少女たちが見出すのは、自分が理想を実現できるユートピアではなく、その対極となるような息も詰まるディストピアかもしれない。すずきみあいムェンドワのデスボイスは、まるで窒息していく断末魔のように迫ってくる。ヘヴィメタル調で鬼気迫る楽曲の作曲者は、若者に絶大な支持を得ている松隈ケンタ

8. 桜の花を

桜の花は、すぐに散ってしまう。だからこそ、その美しさを「尊い」と思える。
桜の花は、しかし、次の年にはまた美しくほころぶ。だからこそ、そこに「永遠」を重ねることができる。
「100年先の桜の花を誰と見るのだろう・・・」というこの曲の歌詞には、儚さをめでる気持ちとともに、永遠を求める気持ちが含まれている。永劫回帰を人は生きている。

9. 真夏の夜の夢

悠久の時間を生きる天使や妖精には、人間の一生は桜の花のように儚く見えるに違いない。白天使と黒天使は、そんな人たちを見て「祝祭を」と唱える。二重唱はついにフィナーレを迎え、「いいこともわるいことも青春のたくらみ」として昇華される。善悪のどちらかに偏ることなく混沌の中を生きるのが人間であり、そこをさまようことは思春期の必然であるとでもいうかのように。

10. 夏の物語

悩める少女の夏の物語は、青春映画のエンディングのような独唱で幕を閉じる。制服姿でときに台詞を交えて切々と歌い上げるいまもりまなかに心を打たれずにいられない。その姿は、2023年の今を生きるミモザーヌのメンバーたちと重なる。100年前にも同じように思春期に悩む少女たちがいたと想像できるし、きっと100年後も変わらないだろうと思える。

第二部

11. とらとら

第二部のオープニングとしておなじみの「とらとら」。声出し解禁を受けて、いままで以上にステージと客席との掛け合いが楽しめるように。さかもとりるはのリードに加えて、新たにこじまさいかが加わって、掛け合いの妙を楽しめるように。そこに4期生と5期生がそろって登場し、明るくて親しみやすくてにぎやかなこの曲がさらにフレッシュになった。

12. 銀座カンカン娘

ここから3曲は「昭和歌謡メドレー」。昭和24年の同名の映画で歌われてヒットした楽曲をいわむらゆきね、ともだりのあ、たなかあかりの3人が魅せる。カンカン帽をかぶって歌って踊るメンバーの姿はどこまでも陽気で、終戦からわずか4年後の曲とはとても思えないほど。厳しいときほど人はエンタメに希望を求め、エンタメは人に活力をもたらすのかもしれない。

13. 真っ赤な太陽

昭和42年、ブームとなったグループサウンズを大胆に取り入れた美空ひばりの大ヒット曲。「原曲のインパクトが強いのでカバーは難しいかもしれない」という心配が杞憂に終わるほどパワフルな歌唱を聞かせるのは、すずきみあいムェンドワとしろみゆの二人。真っ赤なワンピースの見事な着こなしと合わせて、ステージの上に眩しい太陽を呼び込んだ。

14. 世界でいちばん熱い夏

昭和62年にPRINCESS PRINCESS がリリースしたさわやかなバンドサウンドの楽曲。80年代ファッションを彷彿とさせる大胆でカラフルな衣装や、ソロパートで観客から送られるコールが、「熱いライブ」を作り上げた。歴史的な猛暑となった2023年の夏に、この名曲がミモザーヌの熱い夏公演の一ページとして記憶に刻まれることになるとは。

15. 夏のペンギン

加入後一年たって先輩になった4期生、今年加入したばかりの5期生。フレッシュなメンバーたちが披露するのは「メッチャSummer」のサビが印象的な「夏のペンギン」。今回は4期生のすずきよりほサベーラがセンターに抜擢されて、安定したボーカルとアクロバットのソロを披露。よちよち歩きがかわいいなんて思っていたら大間違い。ミモザーヌペンギンの成長は早い。

16. 愛の速度

ここからはすっかりおなじみとなった北村姉妹の津軽三味線とのコラボ。生演奏ならではの迫力ある「和」のロックサウンドが、メンバーのボーカルやダンスを「もっと速く」と駆り立てる。キレとスタミナが求められる看板楽曲だけに、毎回どのメンバーが登場するのか楽しみ。今回は1期生ばかりの中に一人入った3期生のひろせしづくが目を引いた。

17. 木遣りくずし

民謡 meets ジャズ。日本土着のリズムかと思えばスウィング。和音階かと思えばジャズのコード。そんな一筋縄ではいかない多面性を持った楽曲に乗せて、いわむらゆきねがしっとりとした和服姿でしなやかに舞う。他のメンバーたちも日本舞踊を取り入れたダンスを美しく見せていて、これこそが世界に誇りたくなる「日本の美」だと思える。

18. ウキウキブギ

津軽三味線コラボ最後の曲は、初披露のオリジナル曲「ウキウキブギ」。ミモザーヌのレパートリーにありそうでなかったブギウギ。レトロでも和でもなく、ストリートテイストの現代的な衣装に身を包んで、色付きのサングラスをかけたメンバーたちが、コミカルな表情を見せながら明るく歌って踊る。そんな姿を見て、こちらも思わず身体が動き出す。

19. Summertime

ここから4曲はジャズ。歌い出すのは、すずきみあいムェンドワ。まるでダイアナ・ロスのようなファッション。ソロ曲と思いきや、次のコーラスで別の声が歌い始めて驚かされる。そして声の主がしものあやめということでまた驚かされる。こんなにソウルフルに歌うのかと。まったく伴奏のない完全なアカペラの掛け合いは、聞くものを音楽の世界へと引き込んでいく。

20. Swanee

次に、たかはしまおが「Swanee」をソロで披露。速いテンポで息つく暇もないくらいボーカルが続く楽曲だが、彼女は滑らかに流れるように正確なリズムを刻み、揺らぎのない正確無比な音程で歌い上げていく。これまでの公演のたびに伸びやかで透明感のあるハイトーンで観客を魅了してきた「ミモザーヌの歌姫」は、この夏公演をもって惜しまれながら卒団となった。

21. 素敵なあなた

続いて、「素敵なあなた」。ドイツ語の入った歌詞でハモリを聞かせるボーカルという難易度の高さだが、1期生のいまもりまなか・たかはしまお・すずきみあいムェンドワのトリオがしっかりとパフォーマンス。“あなた”に恋焦がれる女性の胸が締め付けられるような切ない気持ちを見事に表現していて、今回の公演の中でもひときわ深い味わいを感じさせる曲。

22. 私の青空

私の青空」は、日本語詞によるカバー。いまもりまなかとともだりのあの二人が、ステージの上をリズミカルに動きながら、息の合った掛け合いを聞かせてくれる。「狭いながらも楽しい我が家」というフレーズの通り、とても心地よく、ゆったりとした気持ちになっていく。この曲でジャズのコーナーは終わる、温かい余韻を残しながら。

23. 大丈夫だよ

多くの人がSNSやサブスクで音楽と出会う時代になって、最近の流行は「踊れて」「シンプルで」「短い」という特徴がある。この「大丈夫だよ」も、ダンスの魅力を全面に押し出した短めの曲で、ミモザーヌがいままで見せてこなかった最先端のパフォーマンスを感じられるもの。「古典からモダンまで」しっかりと表現できる懐の深さに改めて驚かされる。

24. Dream World

現実が厳しいときほど、「Dream World=夢の世界」を強く希求するのが人間なのかもしれない。タケカワユキヒデ作曲のこの楽曲は、悲しみに満ちた手触りを持ちながらも、同時に芯の強さをも感じさせる。絶望の淵から立ち上がって、強い決意をもって新しい世界を作り出そうする人間とアンドロイドの姿は、見るものに強く問いかける。「では、どんな世界を望むのか?」と。

25. HAPPYSONG

少女歌劇団ミモザーヌの無観客生配信でのお披露から3年。「3年の時が流れて」という歌詞が印象的なこの曲には、厳しい中で希望を失わずに活動を続けてきたメンバー・スタッフを想いが込められている。そして、この日を待っていたファンの想いとも響きあうものだ。1期生から5期生まで22人が並ぶ光景は壮観そのもので、YES THEATERを”HAPPY”な空気で包んでくれた。

アンコール

26. 飾りじゃないのよ涙は

アンコールでは、昭和歌謡の楽曲3曲がメドレーで披露された。
オープニングは、昭和59年の「飾りじゃないのよ涙は」。中森明菜がアイドルとは一線を画したアーティストであるということを世に印象付けたヒット曲。情念渦巻くような内面を吐露する楽曲だが、アンコール曲としてミモザーヌが歌うと全く違った雰囲気でむしろアイドルっぽい印象になるのが面白い。

27. コーヒールンバ

昭和36年にカバー曲が日本でヒットした「コーヒールンバ」。いまでは日常の飲み物になっているコーヒーが日本で広く普及し始めた時代の曲で、異国情緒や神秘性や高揚感が感じられる。今回メドレーとして挟まれることによってエキゾチックな雰囲気が際立ち、ミモザ―ヌの表現の幅の広さを印象付けている。

28. JAPANESE GIRL(ヤマトナデシコ七変化

アイドルというより、虚と実の間を自在に泳ぐメタアイドル的な存在だった小泉今日子の昭和59年のヒット曲。和と洋が高次元で融合する編曲は、ミモザーヌの世界観とも相性がいい。少女歌劇団とアイドルは違うと分かっていても、「素顔の方がウソつきネ」と歌う笑顔を見ていると、どこまでが演技でどこからが素なのか頭の中がぐちゃぐちゃになってただただ楽しい。

29. ミモザのように

最後は「ミモザのように」。出発点という意味での原点でもあり、いろいろな世界を見せて最終的にここに帰ってくるという意味での原点でもある。

無観客配信のお披露目公演から3年。少女歌劇団ミモザーヌはステージ・客席を一体にできることをこの公演で示した。

「小さい黄色い儚い花が 夢を咲かせる」という歌詞のように、ここから彼女たちの夢が咲いていくのを見守りたい。