藤井風『 Fujii Kaze “HELP EVER ARENA TOUR”』ファイナル@国立代々木競技場第一体育館

去年、大成功を納めた武道館ワンマンから約一年。

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時に初々しいところも見せてくれた去年とは全く違う堂々とした姿を、今年の藤井風はツアーファイナルの代々木で見せてくれた。

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開演は『風よ』。

演奏が始まり照明が点くと、藤井風の姿はピアノの前にはない。

ステージ中央でマイクを持っているわけでもない。

なんとサックスを演奏している。

度肝を抜かれるサプライズな演出。

サックスは、イントロだけとかワンコーラスだけということではなく、彼のボーカルと同じくまるで歌い上げるように楽曲を通して演奏される。

いつの間にこんなことができるようになっていたのか。

余技、とかいうレベルを完全に超えていて、僕はこれがNYのジャズセッションだったら、と想像した。

いける。

これは、ニューヨークでもロンドンでもエンターテインメントとして通じるだろうとしか思えない。

そんな演奏。

続く「調子のっちゃって」では、ジャズの雰囲気を残しながら、ドラムとギターとコントラバスの3ピースの上に、アーバンな雰囲気でボーカルを乗せてく。

ボーカルも昨年と比べると、声量を増し、表現の幅が広がり、そして艶やかになっている。

彼の声は広大な会場を完全に支配し、観客を一つにする。

次の「優しさ」でようやく彼はピアノの前に座り、コードを奏でていく。

ずっと焦らされていた聴衆の渇きの上にそっと潤いを与えるかのように、優しく音を重ねていく。

ピアノ弾き語りの藤井風は、ますます自由に、そして時に誇らしげに音を紡ぎ、言葉を発していく。

まるで広大な空間が一つの有機体であるかのようにゆらぎ、そして震えていく。

MCを挟んだ後は、6人のダンサーが登場し、CMソングとして大人気を博した『きらり』、そしてロボットダンスが見せ場の『キリがないから』。

ステージの上に立つ藤井風は身長も大きく、肩幅も広くて、映えることこの上ない。

そこにダンスのキレが加わって、まるでダンス&ボーカルユニットのセンターのような存在感。

「こんなにダンス上手かったっけ」と舌を巻く。

天は二物を与えずというが、このルックスに、音楽の才能に、ダンスまで・・・一体彼はどこまで成長するのだろうか。

長谷川将山の尺八ソロから始まる「へでもねーよ」では、日本の伝統音楽のフレーバーを巧みに入れつつ、現代的なストリート感のある世界を音楽とダンスで見せてくれる。

もはや言葉で解説するのが野暮と思われるような「総合芸術」の領域に達しているといっても言い過ぎではない。

再びMCを挟んでここからはどっぷりとバンドサウンドの音を浴びるようなライブへ。

赤と黒の照明が妖しい雰囲気を醸す『罪の香り』、KORG グランドステージの電子ピアノ音がアーバンな「もうええわ」そこからノンストップで「し・ぬ・の・が・い・い・わ」へと繋げる構成も見事。

間奏のギターソロではTAIKINGの奏でるフレーズに藤井風のフェイクのように奏るメロディが重なって、まるでツインギターの掛け合いのよう。

「特にない」では「指ぱっちんかクラップで一緒に」と観客の参加を促したかと思うと、直後の「帰ろう」ではクライマックスで天空の星空を見せる演出。

現世に別れを告げるような歌詞と見事にシンクロして、壮大なスケールで時間と空間を感じさせる。

観客の客層は親に連れられた10歳くらいの子どもから、上は還暦を超えたようなシニアまで。

こんな広い客層に対して、まるで包み込むような大きなスケールの<物語>を見せてしまう藤井風。

彼がまだ20代半ばの若さというのはいつ考えても凄いことだと思う。

一体人生何回目なんだろうと。

「帰ろうかと思うたんじゃけれどもワシらはまだまだ若いし、元気やし、生きとるし、まだ青春の病に…侵されとる」というお馴染みのMCに続いて、「青春病」へ。

ここでもダンサーズが登場し、MVにもあった腕を交互に前に出す通称「野ざらしダンス」で会場を一体にする。

バンドメンバーの紹介の流れで軽くSuchmosの「Stay Tune」を聴かせた後はいよいよ終盤。

デビュー曲「何なんw」では、最後にピアノを即興演奏する柔軟さを見せ、最新曲「燃えよ」ではダンサーを従えて、ショルキーで前に出てソロを弾くというフロントマン的なプレイ。

これほどまで自由なスタイルで、これほどまで楽しく鍵盤を操るキーボード奏者もなかなかいない気がする。

日産スタジアムの無観客ライブでは時に椅子から離れて寝そべったりもしていたけれど、基本的にグランドピアノの前に座りっぱなしだった藤井風。

まるであの時の鬱憤を晴らすかのようなフリースタイルで、エネルギーを燃やしている。

その「燃えよ」というメッセージは会場全体に広がっていく。

広い会場にも関わらず瞬間的に隅々に届くような一体感は、「さよならベイベ」での一斉に手を振る振り付けでさらに強まっていく。

ここがクライマックスと言ってもいい瞬間。

この藤井風のライブの良さは、配信やテレビでは十分に伝わらないのではないか、そんなことを思いながら、僕も手を振り続ける。

バンドメンバーからの挨拶に続いて、最後の曲は「旅路」。

シンプルな演奏だが、味わいのある奥深い曲で、藤井風は最後には着ていたジャケットを脱ぎ捨てて後ろに投げる。

最後までエモーショナル。

場内にこだまする拍手の嵐の中、バンドメンバーが退場し、最後に藤井が会場の隅々にまで届くようにと場所を変えながら深々とおじきをしていく。

その度に拍手は大きくなる。

BGMとして流れる「燃えよ」のオケ。

最後は、そのオケに乗せるかのように、即興でピアノソロを奏でて、そしてメロディーを歌う。

まるでこのライブが終わって欲しくないとでもいうかのように・・・

この1年間の成長の著しさを思うと、藤井風、来年はどこまで行ってしまうのだろうと期待せずにはいられない。

そんなツアーファイナルだった。

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(セットリスト)

1.風よ
2.調子のっちゃって
3.優しさ
4.きらり
5.キリがないから
6.へでもねーよ
7.罪の香り
8.もうええわ
9.し・ぬ・の・が・い・い・わ
10.特にない
11.帰ろう
12.青春病
13.何なんw
14.燃えよ
15.さよならべいべ
16.旅路