世界進出への布石が見え隠れする〜藤井風 2ndアルバム『LOVE ALL SERVE ALL』

2020年5月に1stアルバム『HELP EVER HURT NEVER』をリリースした藤井風。

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クオリティと完成度の高さは音楽好きの間では評判になっていたが、コロナ禍のせいでライブの機会は少なく、一般への知名度の浸透は正直伸び悩んでいた感があった。

武道館でのワンマン後、ホンダのCMソング「きらり」がライト層にも届き、ついにブレイク。

TikTokでもバズるなど、若者たちへの浸透も加速し、2021年後半には日産スタジアムでの「Freeライブ」、そして紅白歌合戦にも初出場するなど日本でのポジションを盤石なものとした。

そこで2ndアルバム『LOVE ALL SERVE ALL』をリリース。

僕はリリース後1ヶ月くらい、ドライブのお供ともして、あるいは散歩のお供として聴いているが、聴けば聴くほど奥が深い。

これは個人的な感想ではあるが「世界への布石」と受け止めた。

ということで、全曲インプレ。

M1. きらり


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ホンダのSUVヴェゼルのCMソングとしてパワープレイされたことで一躍藤井風の知名度を押し上げたヒットソング。
ホンダのCM枠としてはサチモスの後を受け継ぐ形になったこともあり、シティポップの現代的な解釈という面もうかがえる。
キーが高いが歌いながらドライブしたくなる名曲。今や「名刺がわり」の一曲。

M2. まつり


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GQに登場したあたりから「アジアの新世代」としての海外にも見つかった感がある藤井風。
近年はこういうポジションは韓国や中国におさえられることが多く、そんな中「アジアの中のジャパン」のエキゾチズムを出している楽曲。
音階、楽器だけでなく、チューニングも和楽器に合わせるというこだわりよう。そこにTR-808のクールなグルーヴ。ロケ地は群馬らしい。

M3. へでもねーよ (LASA edit)


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これも和楽器なので前曲との繋がりが良い。
サムネは「子連れ狼」だが、MVの中身は完全に現代。
シングル発表時とはコード進行もメジャーに変えた部分が多く、アレンジも少し丸くなり、聞きやすくなった印象。

M4. やば。

ここまでの「ジャパン」な展開から打って変わっって、ホンキートーンライクなピアノを軸にしたソウルバラード的なポップス。
彼のルーツを辿るようなブラックミュージックへのリスペクトをふんだんに取り入れている。
歌詞も「恋愛的なシチュエーション」に自己投影できるような余地を多めに残している。ネットスラング的なタイトルも良い。

M5. 燃えよ


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東京オリンピック後に日産スタジアムで「Free」(無料)のライブを開催しようとした時に用意していたキー曲。
「燃えよ」は「もうええよ」のダブルミーニングで、若者世代に過剰な自粛を強いる「空気」へのアンチテーゼ。
結局、オリンピック後もライブ開催は困難な状況が続き、「日産スタジアムでの無観客ライブ」となったがそのことがかえって「コロナ時代の取り組み」として話題になったのは逆説的。ライブでのキレッキレダンスが印象的。公式MVもいいけど、こっちもおすすめ。


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M6. ガーデン

鼻歌から始まる優しい歌声。繊細な歌詞。これも、恋愛寄りというか、恋人の隣で、あるいは恋人のことを思いながら過ごす時間を思わせるパーソナルな世界観。
メジャー調のミドルバラードの優しい曲なのに、「花は咲いて別れ」「私のガーデン果てるまで」という醒めた視点。これこそが藤井風らしさ。

M7.damn

歌詞は抽象的でダブルミーニングっぽいが、ブレイクして世情に振舞わされる自分への自虐とも取れる。
「damn」とタイトル言われるとドキッとするが、サビの歌唱では「だんだん」と歌われていて、とても聴きやすいロック。歌いたくなるよう。
ただ、この先の自分の進むべき道への戸惑いが本音として見え隠れするという意味で、このアルバムの隠れたキー曲だと思う。

M8. ロンリーラプソディ

今回のアルバムの中では比較的1stアルバムの空気感・アレンジに近く、前作のファンも安心して聴けるというべきか。
ライブでは暗めの照明の中で動き少なめでじっくりと聴かせるような情景が浮かぶよう。
終盤の歪んだボーカルや楽器の響きが繰り返し聴けば聴くほどクセになる。

M9. それでは、

1stアルバムの『帰ろう』とある意味で対になるようなピアノバラード。
「いつか行き着く場所はただ一つだけ」とこの世を去るときに見える情景や思いを想像しながら、若い藤井風がこのようなタイプの世に送り出していることは本当に意義深い。人生後半戦の自分には沁みる部分も多く、自分はこんなに穏やかな気持ちで人生を閉じる覚悟を持てるだろうかと自問自答したくなる。

アウトロのピアノのフレーズはまさに時世の句のようでもあり、おそらくアルバムとしてはここが本来のクライマックスだろう。

ここから間髪入れずに入ってくる発表済みの2曲は、ある意味で「ボーナストラック」だと勝手に解釈している。

あるいは・・・

「まだ人生終わりじゃないよ」というメッセージかもしれない。

M10. “青春病”

僕はこの曲が本当に大好きで、過去に青春を生きたヤングアットハートにも、今青春を生きている若者にも、形は違えども「もがいている苦しみ」が生々しく湧き上がってくる。
Fメロまである凝った構成や、80年代シティポップをリノベーションしたようなアレンジは、音楽的には聴きどころ満載。
そして、「〜〜かと思ったけれどもそうではなかった」というフェイントを多発する両義性あふれる歌詞も、青春の揺れ動きを表現しているようで刺さる。

M11. 旅路

Mステで乃木坂46齋藤飛鳥が「泣けてくる」と言っていたが、若い世代に向けた応援歌なのだろう。そして、綺麗事ばかりではなく、うまくいかないこともあるけ中、なんとか自分らしさを見つけて生きてこうという強いメッセージを感じる。イントロ・アウトロで耳に付く打ち込みのややチープなドラムサウンドは、一人あるいは少人数で悶々としながら楽曲作りをしている若者に対するアプローチなのかもしれないと勝手に解釈。サビのハモリも心地よい。



売れた後のセカンドアルバムというのは、セールス的な成功を確実にするために「キープコンセプト」となることが多い。

けれども、藤井風のセカンド『LOVE ALL SERVE ALL』は、楽曲のバラエティを広げつつ、明らかに「アジア代表枠」を狙いに世界に進出するぞという野心を感じさせるもので、そこが僕にはなんとも力強く思われる。

同世代への若者への応援的な歌詞も増えてきたけれども、藤井風、やはり上の世代からの「応援したくなりたさ」を醸し出すチャーミングな才能に溢れていると言わざるを得ない。

そこが魅力の一つでもある。