コロナのステイホーム期間で爆発的に支持が広がったコンテンツが『鬼滅の刃』だろう。
2019年放送のufotable制作のアニメで人気に火がつき、続きが気になって原作コミックを買い集める人も急増(僕もその一人)。
週刊少年ジャンプへの連載もジャンプシステムの弊害としてありがちな蛇足的な引き伸ばしはなく、今春、まるで『鋼の錬金術師』のように綺麗に完結した。
本来であれば、そのあたりのタイミングで公開される予定であったテレビアニメの続きとなるこの「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」。
コロナの影響で半年の公開延期となったのを本当に残念に思っていたが、今回ようやく満を持したタイミングで日本中の映画館で封切られた。
僕は待ちきれない思いを抱きつつ、初日の初回を観に新宿TOHOシネマに足を運んで来た。
無限は夢幻。
夢を操る下弦の鬼とのバトルを描く前半。
作画は随所で映画クオリティの精密な描写が加わるものの、原作にあった炭治郎、伊之助、善逸のコミカルな掛け合いはそのまま。
セリフもシリアスとギャグのミックスも原作通り。
彼ら3人の成長と絆を描く前半がこの映画のメインかと思わせておいて、本当のクライマックスはもちろん後半。
煉獄と猗窩座のバトルシーンがまさに圧巻。
原作コミックの展開をそのままにしつつ、アクションと特殊効果と演出と音楽と声優の演技で、こちらの期待を大いに上回るものに。
『fate』シリーズを彷彿とさせる刀剣と幻術の交錯するufotableならでは迫力。
この制作会社でこの作品を見られることに我々は感謝すべきだろう。
梶浦由記による音楽もスケールアップしていて、「ああ、アニメって良いよな」と心底思える。
テレビアニメ版も19話は神回だったが、映画の終盤は全ての点であの神回を上回っていた。
炎柱・煉獄杏寿郎の生きざまがこれでもかというくらい描かれて、文字通り完全燃焼。
柱の中の柱。
号泣必至。
ハンカチ必須。
これ見ちゃうと、この作品のアニメはもう最後まで劇場版クオリティで観たくなる。
それで良くない?
何年かかっても良いから。
この三日間で340万人を動員し、興行収入46億円という空前絶後の記録を達成した作品。
この『鬼滅の刃』をマンガ論や少年ジャンプ論に矮小化して論じる向きも絶滅したし、昭和・平成の「アニメ映画観」を一掃する役割も果たしたと思う。
作品的には100点をつけたい。
辛口の僕でも欠点らしい欠点がぜんぜん見当たらない完璧な作品。
TOHOシネマズは鬼滅ばっかりなどという皮肉も耳にしたが、そんな批判には耳を貸す必要はない。
コロナの影響で、映画館に客を呼べる大型作品の『ムーラン』『キングスマン:ファースト・エージェント』『ワンダーウーマン1984』『ナイル殺人事件』『ブラック・ウィドウ』『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』などの大作が軒並み中止・延期になり、旧作の上映という苦肉の策も限界に達しつつある中、タイミング的にも完璧なタイミングで投入された。
まさに恵みの雨。
今このタイミングでこの作品を見られる幸せを噛み締めよう。
劇場に行くと、吾峠呼世晴による書き下ろしの煉獄杏寿郎スピンオフストーリーがついてくる。
煉獄さんのエピソードゼロ的な話を読んでから映画を観るか、映画を観てから読むか…僕のオススメは先に読んでおくこと。
5分もかからず読めるし、映画の「背景」として理解してからの方がより深い感動を味わえるので。
先般公開された『TENET』は「難解だから一度じゃ分からない」って再鑑賞を煽るようなステマにうんざりした(映画自体はアクション娯楽作品として観ればそんなに悪くない)。
だが、この『鬼滅の刃 無限列車編』は、あのカタルシスを得たいからもう一回観たいと思ってしまう。
ヒットが新規を取り込むのに加えて、リピーター需要を想定すると、三日間の初動は容易には失速しそうもないとさえ思う。
2020年のナンバーワンヒットになるだけでなく、これまでの映画興行の歴史を塗り替えるだろう。
それも空前絶後のレベルで。
その意味で、完璧なタイミングで世に出た完璧な作品。
100点(大事なことなので二回言いました)