繊細で叙情的な描写に溢れる傑作〜『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』(2020年、石立太一監督)

遅ればせながら『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』を観に行った。

violet-evergarden.jp

孤児から軍に拾われて「戦闘少女」となった主人公。

戦場を離れた後、郵便会社で代筆を行う仕事につき、職業を通じて「人を愛する」ことを理解しようと務めるながら、人間として成長していく。

この映画は、テレビアニメの最終話の「先」の未来を描くもの。

当時を過去として振り返る人物が冒頭から登場し、過度に説明的になることなく、映画から入る初見にも優しい構成となっている。

複数の時間軸が織りなすが、「愛する人に自分の気持ちを伝えること」の大切さはいつの時代も変わらないというメッセージ。

全体として京アニの作品らしく、繊細で叙情的な描写に溢れている。

同時期に公開されている『鬼滅の刃 無限列車編』の方は、『Fate』シリーズで定評あるufotable+梶浦由記の「剣と魔法」の幻想的な世界をエフェクトをフル活用して迫力をもって描いているが、この『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』は、繊細な心理描写と抒情的な風景の切り替えによって隠喩的に積み重ねて、最後の最後に大きなうねりを生んでいる。「ザ・京アニ」というべきか。

鬼滅の驚異的なヒットの影に隠れがちではあるが、これはこれで作品のクオリティは素晴らしく高く、歴史に残るべきもの。

2020年のアニメ映画は大豊作と言えるだろう。

これまでの京アニの劇場版の傑作としては、『映画けいおん!』と『涼宮ハルヒの消失』が自分の中では双璧だけれども、そこに『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』が加わった。

けいおん!』や『消失』ようなサイドストーリーやスピンオフでなく、この『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』は、テレビ版本編の全ての伏線を回収しつつ、これ以上はないという劇的な結末を見せてくれる素晴らしさがある。

21世紀のアニメ映画のレベルを更新したと言っても過言ではない傑作。

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