永遠のループでも構わない―ドロシーリトルハッピー『STARTING OVER』アルバムインプレ

あなたのためなら、私は永遠の迷路に閉じ込められても構わない。
(「魔法少女まどか☆マギカ」第10話)

最終曲「明日は晴れるよ」のエンディングのギターリフの最後の一音が終わる。自分の心にその音の余韻が広がって、奥深くまで染みこんでいく。そこから一曲目の「COLD BLUE」に戻って最初から聞き返す。まるで永遠の迷路に閉じ込められたかのように―

Dorothy Little Happy(ドロシーリトルハッピー)のセカンドアルバム『STARTING OVER』には、いつまでも浸っていたくなる世界がある。

収録された12曲は、シングル曲を含めて、統一感をもって一つの閉じた宇宙を成している。純粋で、内省的で、ストイックな宇宙を。音楽的には、ハードなギターロックあり、スタイルカウンシル風のポップスあり、歌い上げるバラードありとバラエティに富んでいる。楽曲の幅の広さでは、昨年の個人的ベストアルバムのNegiccoの『Melody Palette』に匹敵する(統一感と物語性ではそれを上廻るかもしれない)。

また、表題曲「STARTING OVER」で聴かせるような高橋麻里の圧倒的な表現力のボーカルに加え、「恋は走りだした」で綺麗に伸びる高音を聴かせるまでに成長した秋元瑠海、「2 the sky」の力強いメインボーカルで楽曲をドライブする富永美杜、堂にいった英語のラップで楽曲のクオリティを高める早坂香美、そして「ストーリー」でくるくると変わる世界を現す表現力でリスナーを魅了する白戸佳奈と、メンバー全員が挑戦を通じて、ボーカリストとしての実力を高めているのもこのアルバムの特徴だろう。

だが、何よりも、10代後半のメンバーが積極的に制作に関わった歌詞に、思春期の揺れ動く心境が描かれている。それこそがこの作品の魅力だ。メンバー全員で相談したという曲順は、ある種の物語を浮かび上がらせている。歌詞に注目しながら、物語を読み進める。

1.「COLD BLUE」(作詞:永井真理子

物語は樹海から始まる。主人公は夜の暗く蒼い樹海で光を求める。いや、本当に求めているのは光ではなくて、「君」なんだ。もう君はいないのに。

2.「2 the sky」(作詞:Dorothy Little Happy)

「全員集合!」の掛け声とともに主人公は闇から救い上げられる。空が広がる世界。仲間が主人公を励ます。「マイナス思考さえも掛け算をすればプラスに変わるでしょう」と。どこに向かうか分からない。地図もない。カバン一つ。でも仲間は言う。「楽しんで」と。

3.「Coloful Life」(作詞:和田耕平

そうだ。世界にはまだ希望がある。光がある。色がある。同じものを見ていても、昨日までとは違って見える。空、雲、花。これが「生きている」ということの証。

4.「恋は走りだした」(作詞:大野一成)

ここで主人公は気付く。自分が新しい恋に向けて走り出していることに。ずっと気付かなかったけど、身近な存在だった君に。そのことを気付かせてくれたのは、あの娘の存在。そして、あの娘には負けたくないと。

5.「ASIAN STONE」(作詞:永井真理子

主人公は新しい世界の扉を拓こうと決意する。その先に何が待っているとかは分からない。「抱えきれない膨らんだ私の夢はまだ腕の中」だけど。

6.「CLAP!CLAP!CLAP!」(作詞:磯貝サイモン

だから、手を叩いて、足を鳴らして、「未知の世界へと飛び込んでいこう」「悩んだ分だけ幸せになれる」はず。

ここから先、物語は後半に入る。

7.「ストーリー」(作詞:磯貝サイモン

「知りたいんだ きみが描くストーリーを」という主人公の想いが語られる。でも、「この手に残る消えてしまいそうな感触 嘘じゃないよね?」とわざわざ確認したくなるのは、なぜなんだろう。

8.「どこか連れて行って」(作詞:坂本サトル

「私をどこか連れていって」と相手に語りかける主人公。「あなたに出会うまでの一人と一人の記憶を重ねるの」といいながら。でも相手は「通り過ぎちゃったかな?」って、目的地に向かおうとしているのか、それとも…

9.「言わなくてよかった」(作詞:坂本サトル

夜の改札で二人が手をつないでいるのを偶然見かける。「確かめることが怖かった ほんとは私 気付いていたのかも」。たぶん、そうだ。気付いていたけど、都合のいいことばかり想像して、観たいものばかりを見ていたんだ。

10.「青い空」(作詞:小澤正澄

夜が明ける。眠れなかった。空を見上げる。「青い空 広く 優しく みんな包むよ」、そうあってほしい。いまの自分を包んでくれるのは、空だけだから。

11.「STARTING OVER」(作詞:磯貝サイモン

また夜が来た。眠れない夜。「孤独になって気付いたよ ひとりじゃ生きていけない」という事実が主人公の胸に突き刺さる。今夜も誰もいない。

12.「明日は晴れるよ」(作詞:永井真理子

願っても届かない想いに打ちひしがれた主人公の側に、いつしか友が現れる。「ねえ 打ち明けること 出来るのなら そっと優しく 寄り添い 包むよ」と語り掛ける。「明日は晴れるよ」と。

この曲のCメロで白戸佳奈はこう歌う。

二人で語っていた あなたの夢が 好き
また 話の続き 聞かせてほしい
ずっと待ってるよ

これはリスナーに向けられたメッセージであると同時に、リーダーである白戸佳奈が他のドロシーのメンバーに対して語っているようにも聞こえる。ドロシーのメンバーの堅い絆をここに読み取ることができる。さらに深読みすれば、ドロシーのリーダーに対して、素の彼女自身が「強くあるように」と励ましているようにも取れる。

「願っても届かない想い」というものは確かにある。

だから人はしばしば打ちひしがれる。

そんなときに「そっと優しく寄り添い包む」ような人が存在するだけでどれだけ救われるか。

エンディング部の余韻を残すようなギターのリフは、まるで聴くものにそっと寄り添うようだ。その優しい音は、あたかも「また始めればいい」と語り掛けているようだ。

そう。「また始める」―それこそが「STARTING OVER」という言葉の意味だった。

樹海から始まり、希望から絶望へ至る道を抜けて、孤独に打ちひしがれるときにも、最後には、友が寄り添ってくれる。そんな確かな手掛かりを得た安心感で、このアルバムは終わる。

体中にその余韻を受け止めながら、ついまた最初から聴き返したくなる。いつまでたっても終わらない。いやむしろ、この永遠のループに留まりたくなる。たとえここが永遠の迷路だったとしても―

「STARTING OVER」、恐ろしいくらいに完成度の高い作品だ。

STARTING OVER (ALUBUM+DVD)

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STARTING OVER (通常盤)

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