表現への意思〜豊崎愛生『love your life, love my life』

彼女は歌う。彼女は伝える。自分の見ている世界を。自分の感じていることを。そう。ここにあるのは、豊崎愛生の表現への意思。

1曲目の『Hello Allo』のイントロが始まれば、そこは最上質のポップの世界。ビートルズギルバート・オサリバンのような。ポール風のベースラインに、まるでスタンダードナンバーのような錯覚を覚える。豊崎愛生の優しいボーカルをコーラスが包み込む。間奏はまるでビーチボーイズのようなハーモニー。

聴くうちに幸せに包まれる。声優の最初のソロアルバムだとはとても思えない。「けいおん!」ともSphereとも違う、一人の表現者としての「豊崎愛生」がここにいる。

M2『春風 SHUN PU』は、つじあやの提供のバラード。季節感のみずみずさは特筆すべき。
M4『何かが空を飛んでくる』は谷山浩子ワールド。単なる日常とか恋愛を超えた世界観を、自分自身が綴ったポエムのように歌い上げている。
M5『march』はコトリンゴによるミニマルミュージック。ピアノのリフレインとノイズ風のリズムが印象的。豊崎はここで、ウィスパーボーカルを巧妙に操る。声が裏返るところでさえも。
M7『パティシエール』は初期フリッパーズを彷彿とさせる(というか「渡辺満里奈&Double Knock Out Corporation
風の)涼しげなボサノバ。主張しすぎない控えめなボーカルは、この曲にぴったり。
M8『ぼくを探して』では、打って変わって、しっかりと自己主張を聞かせてくれる。CHARAの楽曲に負けていない。
M11『Dill』はクラムボンによる叙情的な作品。6/8拍子で、トリッキーな転調もたくさんという難曲。原田郁子の歌詞も一見してシンプルながら深いのだが、すっかり自分の言葉として取り込んで、強いメッセージとして発している。これはゾクゾクと鳥肌が立った。
M12『君にありがとう』は奥華子によるピアノ弾き語りバラード。過去を振り返りつつも未来に駆けていく前向きな気持ちを歌い上げていく。この世を去った愛犬のことを歌ったと知って涙が出てきた。伴奏やエフェクトのお化粧がない分、ボーカルの表現力が引き立つ。
M13『love your life』。これもビートルズのスタンダードを彷彿とさせる直球。アルバムの最後にデビューシングルを持ってくるところが上手い。

個人的には『Hello Allo』と『Dill』が双璧でフェイバリット。だが、どの楽曲も上質。こんなに充実したガールズ・ポップのアルバムはない。しかも、一枚でさまざまなアーティストのおいしいところを味わえる。これだけの才能を集めてデビューアルバムを出してしまうというのは、豊崎愛生が「時の人」であるゆえだろう。

と、このアルバムについてはほとんど手放しで賞賛するレベル。まるで「宝石箱」のようだと。初回限定に付いていくDVDと「詩集」も彼女の表現の領域の広さを示している。いままで食わず嫌いでごめんなさい、と謝るしかない。

豊崎愛生は僕らに表現の「宝石箱」を見せてくれた。どんなアーチストと組んでも彼女はそれを見事に昇華して表現できる。では、彼女はこれからどこかの方向にベクトルを定めて表現を深めていくのだろうか。

表現者坂本真綾が製作者の菅野よう子といわば二人三脚で独自の境地を切り開いて行ったように、豊崎愛生は特定の製作者と濃密な活動を行うようになるのかもしれない。そうなるのか、それが誰になるのかが気になるかな。

love your life,love my life(初回限定盤)(DVD付)

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