好きだったあの歌もあの人も想い出に変わって〜【レビュー】ハコイリ♡ムスメ カバーアルバム 「青春の音符たち〜Respect for 80's & 90's」

Ah 好きだったあの歌もあの人も
想い出に変わって 秋の空に溶けた
斉藤由貴「少女時代」)


青春は誰にでもある。どんなものにせよ−



ハコイリ♡ムスメは、カバーアルバム「青春の音符たち〜Respect for 80's & 90's」を2月13日にリリースした。

ハコイリ♡ムスメとは

ハコイリ♡ムスメは2014年に結成されたグループで、80年代から90年代のアイドルソングのカバーを中心に活動するライブアイドル

当初は「女優志望の女の子」7人で結成され、その後、メンバーの出入りを重ねながら、現在は9人組のグループとなっている。

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オリジナル曲は12曲、カバーのレパートリーは100曲近くに及ぶ(2018年1月現在)が、CD音源の形になっているものはまだ少なく、アルバムのリリースが待たれていた。


厳選された収録曲

今回リリースされた初のカバーアルバムは、チェキッ娘おニャン子クラブ斉藤由貴Qlair、CoCo、ribbonなどのアイドルソングの中から厳選されたもの。

(収録曲)

1. 少女時代(斉藤由貴
2. はんぶん不思議(CoCo)
3. アンブレラ・エンジェル(おニャン子クラブ
4. ドタバタギャグの日曜日(チェキッ娘
5. あのコによろしく(ribbon
6. 眩しくて(Qlair
7. 約束のポニーテール(三浦理恵子
8. 土曜日のタマネギ(斉藤由貴
9. 泣かないでエンジェル(Qlair
10. 夏休みは終わらない(おニャン子クラブ
11. 海へ行こう~Love Beach Love~(チェキッ娘
12. なかよし(上田愛美

超有名な代表曲をあえて外して、知る人ぞ知る名曲的なものを選んでいるところに、プロデューサーのこだわりを感じる。

アルバムを貫く「ストーリー」

12曲の曲順はストーリー性を強く感じさせるものにもなっている。

まず、M−1の「少女時代」は、このアルバムを聴くものを青春時代へと導く。

Ah 好きだったあの歌もあの人も
想い出に変わって 秋の空に溶けた
斉藤由貴「少女時代」)

原由子の作詞・作曲によるこの楽曲は世界観が秀逸で、人生の春の時期を過ぎて秋に突入している世代にも、春の季節への想いを呼び起こしてくれる。

チャイムの音で始まるM−2「はんぶん不思議」は、学生時代のスクールライフを思い出させる。

放課後、帰り道、片想い・・・

そんな青春があった人にも、なかった人にも。


はんぶん不思議(ヴィーナスフォート教会広場)


M-3「アンブレラ・エンジェル」は、ふと出会った少女へのトキメキを男性目線から描いた若き秋元康の傑作。

ゼミの帰りに雨に降られる中傘を差し出してくれた天使のような少女。テレホンナンバーを聞くこともなく別れる一方的な片思いで、こういう世界観の方が僕の青春時代に近い(要らない情報)。


アンブレラ・エンジェル(ハコイリムスメカバー)

片思いを経て、付き合い始めることになる二人の蜜月期は、M-4「ドタバタギャグの日曜日」で微笑ましく描かれるが、長続きはしない。

彼の気持ちが離れていく様が、M-5「あのコによろしく」、M-6「眩しくて」で切なく描かれる。



M-7「約束のポニーテール」は、別離する”彼”を見送り、M-8「土曜日のタマネギ」では、一人きりになった自らの境遇を、行き場を失ったポトフや野菜に重ね合わせる。

青春につきものとも言えるこうした挫折・喪失から立ち直ろうとする過程は、終盤で描かれる。

M-9「泣かないでエンジェル」では自らを慰め、M-10「夏休みは終わらない」では、自ら言い聞かせるように「終わらない」と唱える。

何かを得るためには、何かを失わないといけないということわざの通り。


回復していく過程は、M-11「海へ行こう~Love Beach Love~」とM-12「なかよし」でフィナーレを迎える。

「もっと長く付き合っていこうよ 君がいるから強くなれそうさ」と歌いだす「なかよし」は、刹那的な恋愛ではなく、理解者として長い時間を過ごすパートナーに向けられたメッセージにように聞こえる。

それは友人かもしれないし、家族かもしれない。ハコイリ♡ムスメとファンの関係かもしれない。

そんな構造で12曲の世界は一巡し、そして冒頭に戻る。

青春は終わるものではないし、その気になれば、いつでも心の中で青春に戻れる、とでもいうかのように。

アナログ的な温かみのあるサウンド

サウンドは、ボーカルもバックトラックも現代の録音だが、過度にクリアなデジタル風味を抑えていて、80年代から90年代頃の雰囲気のある味付けがなされている。楽器も当時のものを使用しているらしいが、それにとどまらず、ボーカルのエコーの広がり感や楽器の音の塊感の仕上げまで、徹底的に当時のサウンドを再現しようとする職人技を感じることができる。

ボーカルは、ソロで聴かせるパートあり、ハモリパートあり、ユニゾンで迫ってくるパートありと、楽曲の世界観に合わせた歌割りがなされている。12歳から18歳のメンバーの歌声はまだ成長途上なところもあるが、そういう点にこそ「青春」のゆらぎを感じることができるし、まさにそういうボーカルこそがアイドルの魅力とも言える。

一方で、どのメンバーも、オリジナルの曲想・世界観をしっかりと理解して噛み砕いた上で、独自の表現で聴かせようとしていることが、ボーカルの表情の付け方から良く分かる。

凝ったパッケージ

作品へのこだわりは、選曲・サウンドだけではなく、商品のパッケージからも感じることができる。

CDのパッケージは、1986年に発売されたおニャン子クラブの「夢カタログ」をオマージュしていて、各種デザインはもちろん、メンバーの衣装や髪型に至るまで、当時のスタイルが再現されている。

おニャン子クラブのメンバーたちも、愛情あふれるオマージュを好意を持って受け止めている。

今後の展開にも期待

ハコイリ♡ムスメは、このアルバムのリリースを受けて、2018年2月から3月にかけて、原曲を歌うグループに所属していた下川みくに(元チェキッ娘)、宮前真樹(元CoCo)、渡辺美奈代(元おニャン子クラブ)をゲストに迎えた生バンドのツアーを予定している。また、活動の本拠地とも言えるAKIBAカルチャーズ劇場で、これらのカバー曲を含むライブを定期的に開催している。

このアルバムの完成度は高く、珠玉のような作品だと言える。

個人的には、さらに活動を続けて行って、レパートリーをさらに増やしながら、第2弾、第3弾のカバーアルバムが出るようになればいいなと期待している。


ということで、このアルバムは、かつてのアイドルソングが好きだった人にも、80年代・90年代の楽曲を「新鮮なもの」として受け止める人にも、ともにオススメしたいエバーグリーンな作品。そして、ハコムスにはこの先もエバーグリーンなグループであってほしいと願う。


青春の音符たち~Respect for 80's&90's

青春の音符たち~Respect for 80's&90's