高校時代に読みたかった〜『これからの「正義」の話をしよう』

『これからの「正義」の話をしよう』を読んだ。早川書房だけどSFじゃない。でも、早川としては今年の新刊でヒット作、のはず。以下ネタバレ。

これからの「正義」の話をしよう――いまを生き延びるための哲学

これからの「正義」の話をしよう――いまを生き延びるための哲学

第1章 正しいことをする
第2章 最大幸福原理──功利主義
第3章 私は私のものか?──リバタリアニズム(自由至上主義)
第4 章 雇われ助っ人──市場と倫理
第5章 重要なのは動機──イマヌエル・カント
第6章 平等をめぐる議論――ジョン・ロールズ
第 7章 アファーマティブ・アクションをめぐる論争
第8章 誰が何に値するか?──アリストテレス
第9章 たがいに負うものは何か?――忠誠のジレンマ
第10章 正義と共通善

著者のマイケル・サンデルは政治哲学を専門とするハーバード大学教授。本書では具体的な例を引きながら「最大多数の最大幸福」という功利主義や、当事者同士の自由意志を最大限尊重すべきというリバタリアンの考え方などが紹介され、いずれも批判される。

正義は損得ではないし、当事者同士が合意していれば何をしても良いというものではない、というわけだ。サンデルは、アフガニスタンでの戦闘や、移民をめぐる問題、あるいは代理母といった具体的な例を取り上げながら、これらの問題を論じる。

著者の主張を一言で言うながら「正義」はそれ自体で追求することができる価値だということ。そして、社会が皆「正義」を追求するならば、あるいは追及できるリーダーを支持するならば、我々はより幸福な社会へと近づくであろうと。かなり乱暴に端折るとそういうことだと思う。そして、著者はオバマ大統領の発言に、「正義」を追求する姿を見出しているようだ。こうしたさりげないオバマ支援的な意図が見え隠れして、読んでいくうちになんとなく醒めてしまった。

考えてみれば、このような本は、高校生とか大学の教養課程のような、多感な時期に読まれるべきだと思う。あの頃の自分も「絶対的に正しいということはあるか」などと青臭いことを考えて悩んでいた。さまざまな価値観の乱立する社会の中で。当時の僕が読んだら、きっと今よりもずっと心に響いたに違いない―

しかし「いまを生き延びるための哲学」っていう副題だけはいただけない。原書には全くそのような文章はないし、著者の意図ともずれている。生き延びるってどういうこと?と聞きたくなる。そして何とも致命的に格好悪い。