正直期待外れ〜『影の銀行』

中公新書の経済本には良いものが多い。昨日エントリーした『通貨で読み解く世界経済』は最近の愁眉。その勢いで『影の銀行―もう一つの戦後日本金融史』を買った。

影の銀行―もう一つの戦後日本金融史 (中公新書)

影の銀行―もう一つの戦後日本金融史 (中公新書)

結論から言れば、自分にとってはいまこの本を買って読む必要はなかった。客観と主観、事実と意見、公と私…そういったものが混在している。小説やエッセイではそういうものの「味」ではあるが、このような本の場合には、「味」よりも先に「論理」が期待される。

一橋大学社会学部卒業、三井信託銀行(現・中央三井信託銀行)に入行。99年、千代田火災投資顧問(現・トヨタアセットマネジメント)に入社」という著者の経歴からは、もっと肌感覚のある「マネーの流れ」的なものを期待していたのだが、実際にはそうでもなかった。

そして何よりも期待外れだったのは、タイトルに「影の銀行」とか「もう一つの戦後日本金融史」とあるにもかかわらず、第一章から第三章までのほとんど「影の銀行」について説明がなされず、また金融史の記述も見事に「正史」になってしまっていることだ。要するに「もう一つの」という修飾語を施すほどの内容ではなかった(このあたりは著者の責任というよりも編集サイドが責めを負うべきだろう)。

では、日本で「影の銀行」とは何だったのか。著者によれば、結局のところ、戦後金融史的には東西冷戦の申し子である「ユーロダラー」の集まった銀行が影の銀行の始まりで、日本においてはノンバンクや年金基金、ヘッジファンド等が「影の銀行」的役割を果たしたという。この話が出てくるのが、実に第四章。実はこの本ってこの章だけでも成り立つんじゃないのと思わせる。しかし、「影のものを衆目の前に引きずり出す」というようなインパクトには乏しかった。個人的には正直期待外れ。まあ「ユダヤ陰謀説」みたいなものでなくて、マトモといえばマトモだけれど、退屈といえば退屈。

ただ、著者の語りの中には、銀行勤務経験から出てくる「こぼれ話」的なものもあって、これはこれで当時をリアルに生きた人の感想として面白い。銀行を辞めて10年以上もたっているので、ネタとしては既に陳腐な感じは免れなかったけれども。今年67歳。ということは、逆に「退職したオトーサンの昔話を聞く」というような軽い心構えで読めばよかったのかもしれない。これも教養の一つと考えればいいし、そこで地雷を踏んだとしてもそれはきっと授業料だ。そんなに高くないし。