『セカイ系とは何か〜ポスト・エヴァのオタク史』

若手のライター・評論家である前島賢による「セカイ系」論。「ポスト・エヴァ」という副題が付いているが、「エヴァからヱヴァ(破)まで」という方が内容に近い。いずれにしても、セカイ系の解説書、あるいはおたく論として面白く読んだ。

セカイ系とは何か ポスト・エヴァのオタク史 (ソフトバンク新書)

セカイ系とは何か ポスト・エヴァのオタク史 (ソフトバンク新書)

新世紀エヴァンゲリオン』『イリヤの空、UFOの夏』『最終兵器彼女』『ほしのこえ』等の「セカイ系」と呼ばれる作品について説明し、分析を加えている。これがよく的確でコンパクトな上に、対象への愛を感じさせる。著者自身、第三世代のオタクの典型であることを任じているのだろう。そして、後半では、東浩紀による「セカイ系」論と、宇野常寛の「ゼロ年代」論を対比して論じている。これがなかなか秀逸。概念を総括する試みなのだろうが、90年代/ゼロ年代の社会や、それぞれを代表する作品によく目配せができている。奈須きのこも出てくれば西尾維新も出てくるという具合。

最後の章では『ハルヒ』『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』『化物語』等のアニメが、ポスト・エヴァを代表する作品として挙げられている。その辺の新しさも魅力。いや、こうして並べてみると「自分語り(自己言及による自己相対化)」をベースとしながらも、「決断主義」によって、紛れもなく選択肢を選び取って、未来に進むという態度こそが、著者の言う「ポスト・エヴァ」であり、いわば「ポスト・セカイ系」なのかと感じた次第。ここからクリエーターは何を作っていくのか、おたくはそれをどう受容するのか、10年代が楽しみだと思う。この点では、やっぱり『ヱヴァ新劇場版』の四部作の行方が、ある意味で試金石になるんだろうね。

以下蛇足。
この書籍では作品名が挙がらなかったが、個人的には『ストライクウィッチーズ』がポスト・セカイ系だと思う。戦闘美少女が正体不明の敵と戦う、でもうじうじと悩む男は登場しない。そして「パンツじゃないから恥ずかしくないもん!」というコピーに「ってかこれパンツだろww」などと突っ込みを入れながら、作品を鑑賞するおたくという構図。これこそポスト・セカイ系っぽい態度かと。