現世は夢か〜『インセプション』

レオナルド・ディカプリオ主演の『インセプション』を観た。以下軽くネタバレ。

インセプション

夢の中に侵入するという点で、アニメの『RD 潜脳調査室』や『パブリカ』(原作は筒井康隆)、実写映画では『ザ・セル』。何が夢で何が現実か分からなくなるという点で『マトリックス』(及びその元ネタの『攻殻機動隊』)、一見不可能と思われる困難に緻密なチームワークで立ち向かうという点で『ミッション・インポッシブル』や『オーシャンズ11』…

この作品に固有のオリジナリティがあるとは思えないが、こうした過去の傑作からアイデアを集積して作り上げた大作がこの『インセプション』。これに、夢の中では時間が早く過ぎるとか、夢の中で夢を見る、さらにその夢の中の夢でまた夢を見るとか、ギミックを加えることにより映画的な面白さを増す試みがなされている。

こうしたアイデアこそがこの作品の価値の本質であり、これをアニメではなく実写化したところがさすがハリウッドだと思う。だが、作品の鍵を握る「夢の中の謎」の本質は、論理的で構造的なものではなく、感傷的で個人的なものだった。つまり、主人公の奥さんに対する罪悪感だったり、子供に再開したいという愛だったり。個人的には、このようなエピソードは作品のテーマをぼけたものにしてしまったと感じた。

人物の深みを出すためにそういうプライベートなものを描写するのはアリだと思うが、主人公の感傷こそが夢世界の謎の核心という設定は勘弁してほしい。この辺を上手く編集すれば、尺も2時間前後にも収まり、ストーリーもかなりすっきりするのにと思う。クリストファー・ノーラン監督は、今回一本の映画にいろいろな要素を盛り込み過ぎたのではないか。

ちなみに渡辺謙が重要な脇役で登場するが、ライバル企業に勝つためにアンフェアな手段も辞さない日本人という役どころ。部屋が微妙に中国風であったり、年老いた顔の特殊メイクがひどかったりと、扱いが気になるところも少なくなかったが、ビジネススーツが似合うのが救いだった。