時間反転のアクションに見所ある娯楽大作〜『TENET テネット』(クリストファー・ノーラン監督、2020年)

クリストファー・ノーランの最新作『TENET テネット』。

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2020年の『インセプション』では「夢の中に入る」という設定で、重力が変幻自在に移り変わる映像を観せて観客を驚嘆させたクリストファー・ノーラン監督。

今作では「エントロピーが減少する物質」という設定を持ち出し、時間を逆行する映像を観せてくれた。

2000年の出世作メメント』でも、時間を遡るというアイデアで映画を成立させたわけだが、今作では大掛かりなセットで時間反転のアクションをスクリーンに展開している。

この「時間反転のアクション」こそが、今作でノーランが見せたかったものに他ならない。

この映画はとかく難解だと言われがちだが、僕の目で見ると、『ダークナイト』のような深遠な哲学的テーマも回避され、『ダンケルク』のような苦行とも言える平行展開もほとんどなく、『インセプション」のようなどちらとも取れるようなエンディングさえもない。

ノーラン自身はアカデミー賞の常連とも言えるが、そういった「インテリ層」受けというよりも、アメリカの平均的な映画ファンに対して目線を下げて、単純なプロット、テンポの良い編集、爽快感のあるアクションを全面に出していると感じる。

欧州とアジアを股にかけて謎に迫る展開は、『007』や『ミッション・インポッシブル』のようなスパイ映画を好む向きへのアピールも十分だし、スーツをクールに着こなす主人公、金髪でスタイリッシュで影のある美女、強大なパワーを持つ悪役、そして謎の出自を持つパートナー・・・

エンタメの王道とも言える構図がこれでもかとばかりに展開されている。

「時間逆行」のアイデアは物理学チックな説明をまとってはいるものの、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』や『ターミネーター』などの往年のタイムトラベルものの設定と同程度のものであり、タイムリープやループといった手法も、近年では日本のアニメやラノベ発の流行でおなじみになっているものだ。

深く考えずに画面で繰り広げられる時間逆行アクションを、IMAXの精細な映像と、重低音の効いたサウンドで堪能するのが正解だと思う。

ノーランの『バットマン3部作』でアルフレッドを演じ続けたマイケル・ケインが出演したとか、来年公開の『ザ・バットマン』で主演となっているロバート・パティンソンが出演したりとか、ニヤニヤするお楽しみもあり。

シルバーウィークの娯楽映画としてよく出来ていると思う。『ダンケルク』のトラウマ克服にも向いている。80点。