現し世は夢、夜の夢こそまこと
(江戸川乱歩)
萩尾望都『バルバラ異界』を一気に読んだ。両親が殺された少女・青羽は眠りから覚めることがない。彼女の夢の中に入り込む主人公・渡会時夫。そこで見たものは―
他人の夢の中に潜入するという設定は、映像作品としては、今敏監督『パプリカ』、クリストファー・ノーラン監督『インセプション』と共通している。夢と現実の境界が曖昧になり、何が現実なのか分からなくところも。
『バルバラ異界』の連載開始は2002年。映画『パプリカ』は2006年、『インセプション』は2010年だから、『バルバラ異界』はこれらの作品に先行している。年代的には2000年のターセム・シン監督(というか、むしろジェニファー・ロペス主演で有名な)『ザ・セル』の直後の作品と位置付けられる。夢の中への潜入が命の危険を伴うという設定や、作中に「連続殺人犯の夢に潜入」という描写から、『ザ・セル』から多少の影響を受けていることが伺えるが、ストーリーは全く異なっている。
夢の中の世界は、個人の精神世界なのか、それとも物質を介在して共有されているものなのか。時間を越え、空間を越える世界の中で、親子の関係さえあやふやになっていく。それは、自我、アイデンティティそのものが消滅する不安につながる。
いったい、自分は、誰なのか―
第27回日本SF大賞受賞作品。終盤の怒涛のような展開についていくのは大変だが、この有無を言わせぬ勢いを含めて、大御所の傑作として楽しむべきなんだろうと思う。

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