境界性人格障害〜『ティファニーで朝食を』

村上春樹による新訳。

ティファニーで朝食を

ティファニーで朝食を

主人公のホリー・ゴライトリーは、オードリー・ヘップバーンのような洒落た女性ではない。不安定で嘘つきで愛情に飢えている境界性人格障害のように思える。だから、この小説はいまでも新しい。そして、だからこそいま村上春樹が翻訳するのに値するのだろう。

5th Avenueのティファニー前で朝食を食べる女性はいまはいないだろう。だが、近くにいる人の気を引くためにとんでもない嘘をつくホリーのような女性は少なくないのではないか。そして、それを嘘だと分かりながらも、そのペースに巻き込まれてしまう男性もけっこういるのではないか、この主人公のように。カポーティが描きたかったのは、そういう人間関係と人間心理なのだろう。決してニューヨークのおしゃれな風俗ではない、はず。あ、でもこの本の表紙のティファニー・ブルーは洒落ていると思う。