いつもの戯言シリーズの展開に似て始まるが、物語は微妙に「脱=構築」され、ある事件を契機に主人公のいーちゃんも大きな変貌を遂げる。
ぼくは姫ちゃんと出会った。
そこには、それだけの意味があったと思う。代替のない、それだけの意味があったと思う。だが、ぼくにとってはそうでも、姫ちゃんにとってはどうだったのだろう? 姫ちゃんにとって、ぼくとの出会いは、意味があったのだろうか。姫ちゃんはぼくと出会うことで、何かが変わったのだろうか。出会ったのがぼくであったことは、ぼく以外の誰かでなくぼくだったことは、彼女にとって意味があっただろうか。
姫ちゃんはぼくの前で何度も泣いた。
ぼくは何度も、彼女を傷つけた。
無意識に、時には意図的に。
ぼくは、その分だけ、何かをあげただろうか?
引き換えに、何かをあげただろうか?
ぼくには、分からないのだけれど。
――『案外、自分では分からないものですよ』。
なるほど、言い得て妙だ。
実に――絶妙だ。
なら、一生、分からないかもしれない。
この問題に関してだけは、最後の最後に颯爽と登場して、全てに回答を与えてくれる頼れる請負人は現れない。自身の課題と、自身の問題、それに自身の標的には、やはり自身で応えるしかないのだから。
でも、きっと。あの六月以降――姫ちゃんは生きてきた。
だとすれば、ぼくの存在も無駄じゃなかった。
ぼくと姫ちゃんとの出会いも無駄じゃなかった。
救いはあった。
(p.472,473)
戯言シリーズの主人公が、初めて前向きになった瞬間。ターニングポイント。そして物語はシリーズ最終作の『ネコソギラジカル』へ続く。
ボーナストラックのような、カバー裏のイラストが素敵。
- 作者: 西尾維新,take
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2003/07/05
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