世界最大の邪教とは

ニーチェの『アンチクリスト』を現代語訳にした『キリスト教は邪教です! 現代語訳「アンチクリスト」』を読んだ。講談社+α新書から840円とお手軽な値段で出ている。

キリスト教は邪教です! 現代語訳『アンチクリスト』 (講談社+α新書)

キリスト教は邪教です! 現代語訳『アンチクリスト』 (講談社+α新書)

ニーチェの手軽な訳書というと、訳文の硬い新潮文庫か、値段が高くて分厚いちくま文庫くらいしかなかったのだが、この現代語訳は、訳文もこなれていて、コンパクトにまとまっているのがいい。

現代語訳の文体は、19世紀の思想家のものというよりも、同時代の評論家のそれに近く、宗教・哲学・思想のバックグラウンドがなくとも、すんなりと頭の中に入ってくる。

内容は、キリスト教に対する批判というよりは、教会に対する批判というもので、「原罪」「平等」「裁き」などという概念が、個人の幸福を否定する仕組みとしてどう使われているのかを鋭く暴いている。

そして、一神教という価値観が、いかに他の民俗や宗教との対立を生むか、その結果どのような横暴をもたらすかということを描いている。まるで冷戦後の世界のありようを視野に入れていたかのように。

ニーチェの入門書というのは玉石混交であり、なかには「永劫回帰」や「超人」について煙に巻くような書き方をしているものも少なくないのだが、「アンチクリスト」にテーマを絞ったこの本は、間違いなくお勧め。