『オリジン』(ダン・ブラウン)

ダヴィンチコード』で有名なダン・ブラウンの最新刊『オリジン』。

オリジン 上

オリジン 上

オリジン 下

オリジン 下

おなじみラングドン教授がかつての教え子の科学者の重大発表のイベントに招待されたことで、宗教と科学の争いに巻き込まれ・・・

という定番の展開。

今回は舞台をスペインにとっていて、マドリードバルセロナの美術館や建造物が重要な役割を担う。

宗教の方は、キリスト教カトリック)、ユダヤ教イスラム教などが登場。

いつものように主人公が美女と逃避行…という既視感ある展開で、美術品が重要な鍵を握る中、今回は、スマホ人工知能、ネットメディア、量子コンピュータなどの21世紀ならではネタも盛り込まれテイル。

エンタメ読者が好きそうなレベルの「適度に新しいフレーバー」を効かせるあたり、さすが売れ筋作家だと思わせる。

サスペンスとしては飽きさせずに読むものにグイグイとページを捲らせるが、終盤に近付くにつれて、衒学的な仕掛けがどんどん明かされて行くと、最後に残った種は実に常識的。


「幽霊の正体見たり、枯れ尾花」という俗語があるが、今作もまさにそんな感じ。「地球上のあらゆる宗教を揺るがす大発見」ってほどのことかと思ってしまった。


事件に巻き込まれて、いつの間にかヒロインと二人三脚で逃亡していく主人公は、今回も、さしずめ島耕作並みに「都合よく」女性の助けを借りていく。


この御都合主義が鼻に付くような人は最初からこういうエンタメ作品ではなく、学術書でも読んだ方がいいのかもしれない。

「いかにも怪しい人物」が真犯人ではない、というのも、この人のお得意パターンであり、今回も当人としてはかなり捻っているつもりなのだろうけれども、『エイリアン』シリーズとか『2001年宇宙の旅』なんかの古典的なSF映画に親しんだ人からすると、途中で展開が読めてしまうと思う。

肩の張らないエンタメ作品としては一流だと思うし、映画化されるのが眼に浮かぶくらい、ビジュアルイメージとか見せ場がはっきりと伝わって来た(映画のキャスティングについて個人的な要望を言えば、ラングドン教授には、トム・ハンクスではなくて、ベネディクト・カンバーバッチをあててほしい。ハリウッド制覇を狙うのなら、アメコミヒーローもいいけど、こういう知的な学者役で売れてほしい)。


最後に、越前敏弥の訳文に一つだけ注文をつけたい。全体的にこなれていて読みやすいのはいいけれど、現在女性の話し言葉の語尾が古すぎる。「よ」「わ」「ね」が異常に目立つので、そこだけ時代が古く感じてしまった。本作のヒロイン像にも合わない。些細なことだけれども、作品の世界観を細部に到るまで反映させるのが大事だと思う。