国民的なTV音楽番組っていまや「Mステ」くらいかなと思っているんだけど、先日、FNS歌謡祭なるものを見ていて「ああ、これも国民的な音楽番組だな」と改めて思った。
最後に長渕剛がやりたい放題やっていて、こういうのをみんな見たいのかなという疑問はもったけれども、ともかく、大勢の人が同じ音楽番組を見て共通の話題になるなんていう機会なんて、いまやもう絶滅寸前と言ってもいいかもしれない。あとは大晦日の紅白くらいか。
そんな中、「「国民的ヒット曲」はもう生まれないのか?」と書かれた帯の付いた柴那典の「ヒットの崩壊」を読んだ。
90年代に小室哲哉プロデュースでミリオンセラーが生まれていたときと比べると、確かにCDは売れていないし、オリコンチャートは週替わりだし、みんなが一緒に口ずさめる歌も減ったように思える。
でも、よく誤解されているように、「最近、アーティストが短命になった」なんてことはない。
ロックバンドは「イカ天」ブームで消費されていた頃よりもずっと寿命が長くなっているし、アイドルも「冬の時代」に比べると長い期間活動するのが当たり前になっている。
それは、CDからライブへ、と音楽市場の中心が変わったからことと大いに関係がある。
僕なんかも現場に足を運ぶことが多いけれども、CDでは体験できないようなライブ感のあるライブ(なんじゃそりゃ)を味わえる。そして、ライブが音源よりも飽きが来ないんだよね。毎回変わるから。
え? 口パク=リップシンクのところはどうなんだとか、毎回似たようなセトリのところはどうなんだとか、そんな野暮なツッコミはいらない。っていうか、そんなところに行って退屈しているとしたら、それは行く方が悪い。
という認識なので、FNS歌謡祭はまさにライブ感、とりわけフェス感が凄くて、今求められているものはああいうスタイルなんだろうなと。
何の曲かは別にして、GACKTと西川貴教のコラボとかゾクゾクするし、そういう感動をもらえるのが音楽の醍醐味だと思う。
その辺の「CDからライブへ」「音楽番組のフェス化」もこの本ではしっかりと書かれているし、もっと言えば「CDからストリーミングへ」という流れについてもちゃんと書かれていて、ストリーミングからヒットが出るとも予言されている。
実際には2016年の終盤の日本の音楽シーンとしては、ピコ太郎の「PPAP」がYoutube発で世界を席巻したわけだけれども、その点に関する言及・予言はなかったかな。まあ、あれは多くの音楽関係者にとって想定外だったと思う。
ただ、ピコ太郎のケースで示唆があるとすれば、いまやCDなど出さずとも、タイアップなどなくとも、地道なライブなど行わずとも、Youtubeをきっかけに大ブレイクする可能性があるということ。
そう言えば、ピコ太郎のヒットを捉えたチャートは「オリコン」ではなく「ビルボード」だったんだけれども、その辺の「オリコンからビルボードへ」という流れもこの本には書いてあってさすがの目くばせだと思った。
他にも、最近の日本の音楽シーンが洋楽コンプレックスを克服しているばかりか、独自の文化を発信しているという例も挙げていて、読めば読むほど滋味がある。
「最近の音楽シーンは…」などと嘆いている人が読むと、目から鱗が落ちるような体験ができるんだじゃないかな。
- 作者: 柴那典
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2016/11/16
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