といっても、現在公開中の『東京タワー』はまだ観ていないのだが、二人の出演する近作をDVDで観てみた。
まず、黒木瞳の出演する『阿修羅のごとく』。これは向田邦子が脚本を書き、NHKでドラマ化されたのだが、2003年、森田芳光がメガホンをとって映画化した。ストーリーは向田邦子の最高傑作と言われるだけあって、人間観察の鋭さと同時に家族愛の繊細な描写を併せ持っていて、ぐいぐい引き込まれる。森田芳光はやや理が勝ちすぎているきらいがあるが、エピソードの積み重ねを手堅くまとめている。中心となる四姉妹のキャスティングは、上から、大竹しのぶ、黒木瞳、深津絵里、深田恭子。
で、肝心の黒木瞳。
浮気している夫を持つ妻という役どころで、母親の境遇に自らを重ねつつ、他の姉妹や、自分の家族に弱みを見せまいとする気丈な部分もあり、総じて複雑な感情を表現することが求められるのだが、感情表現は比較的単調。また、表現自体もやや優等生的で、予想された範囲での無難な演技。誤解を恐れずにいえば、TV的(いや、長年好感を持っている女優さんで、素敵な年齢の重ね方をしているとは思うが)。決して品位を落としてまで狂おしく乱れる必要はないと思うのだが、計算ずくで安全地帯の中で演じているだけでさほど面白くはない*1。
一方の寺島しのぶが出演する『ヴァイブレータ』。こちらも偶然だが2003年の作品。アマゾンのレビューによると「自分の頭のなかに氾濫する“声”に悩まされ、アルコール依存症に陥っている31歳のルポライター玲(寺島しのぶ)は、コンビニで見かけた長距離トラック運転手の岡部(大森南朋)と関係を持ち、そのまま彼のトラックに乗り込んだ…」というストーリーなのだが、ここでの寺島しのぶは秀逸。性的な欲望を含む人間のさまざまな思いを、情念のレヴェルで表現できる表現力に驚嘆した。相当踏み込んだ表現もあるのだが、臆することなく全身で挑んでいて、この年の各映画賞をほぼ総ナメしたのもうなずける。
ということで、いまのところは、寺島しのぶの方に軍配が上がっているのだが、『東京タワー』を観ることでこれが変わるか否か。
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