社会派ドラマ〜『悪人』

モントリオール世界映画祭・最優秀女優賞『悪人』を観た。以下ネタバレ。

誰が本当の悪人なのか・・・映画『悪人』耽溺サイト

これは妻夫木聡深津絵里による悲恋の話ではない。「悪人とは何か」というある種の正義感による社会派ドラマだ。李相日監督は真面目だと改めて思った。柄本明樹木希林という日本映画を代表する俳優陣が、「脇役」の一言では片付けられない重要な役を演じている。

そして、見方によっては「この人こそ悪人」という役を演じる岡田将生満島ひかりの若い二人も。二人とも美形でありながら、人間臭い、つまり人間の嫌な部分を垣間見せる技巧派の芝居だった。特に満島ひかりの体当たりの演技が目立った。

松尾スズキもある意味アレな悪人っぷりだったが、あまりに典型的で、警察の作る詐欺防止VTRみたいだったかもしれない。

さて、主役の二人。妻夫木聡は金髪でGTRを乗り回す役だったが、どこか優等生的な部分が終始抜けなかった。『ヴァイブレータ』のときの大森南朋のような朴訥さや、『ゆれる』のときのオダギリジョーのようなふてぶてしさを感じさせてくれるともっとよかったと思う。でも、終盤に一暴れするところで瞳が不気味に光った瞬間はどきりとさせてくれた。彼は悪人だったのか。解釈は見る人に委ねられている。

そして、われらがふかっちゃん。完璧。清楚で凛として、それでいて女性らしい包容力を感じさせる。ベッドシーンも自然だった。ごくたまに理が勝ち過ぎているような表情もあったけれども、悲しみを感じさせるシーンでの表現力は圧巻で、何度も涙を誘った。モントリオールの受賞も納得。

それにしても『告白』の松たか子と『悪人』の深津絵里、今年の女優賞にいずれを選ぶか悩ましいところ。でも、岡田将生って両方の映画に出演しているというのはすごいことだ。