シーズン1と2を通じて描かれた光と影〜『全裸監督』(武正晴総監督、山田孝之主演)

お待たせいたしました、お待たせし過ぎたかもしれません。

『全裸監督』のシーズン2がNetflixで公開され、最終話まで見たので感想を残しておこうと思う。

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『全裸監督』は、2016年に太田出版から刊行された『全裸監督 村西とおる伝』を元にネトフリがオリジナルドラマ化したものある。

最近のテレビがつまらなくなったのには、何よりもまず予算不足、次いで視聴者からのクレームを恐れた表現基準の厳格化がある。

が、ネトフリは視聴者からの契約収入に裏打ちされた多額の制作料を出すことができ、そしてR18のコンテンツとして分別してリリースすることを可能としている。

その結果、アダルトビデオの監督という題材を取り上げ、豪華な俳優陣を集め、国内はもちろん海外ロケを敢行することができることで、昨今の民放ドラマとは全くレベルの異なるドラマをリリースするに至った。

それがシーズン1の出た2019年の出来事である。

村西とおる本人が憑依したような役作りの山田孝之黒木香という人間を掘り下げて演じ切った森田望智、この二人はもちろんだが、脇を固めた満島真之介玉山鉄二柄本時生伊藤沙莉らの渾身の演技が、この映像作品にリアリティをもたらした。

『全裸監督』がヒットすると、当然のようにバッシングも起きた。

いわく、「村西監督を美化しすぎている」。

いわく、「黒木香に許可を取っていないのではないか」。

いわく、「アダルトビデオは本質的に男性から女性への性暴力である」。

などなど。

個人的には、シーズン1でもこの業界の「影」の部分は相当に描かれていたと思うの。

例えば、警察との癒着、暴力団との関係などなど。

重要な登場人物が、暴力団に籠絡される辛い描写もあった。

恐らく、『全裸監督』バッシングの少ないない部分は、作品をろくに見ていない層からされていたのだろうと思う(もちろん、全部見てから批判せよということではないない)。

そのような批判が、既存テレビメディア界隈から起きたものなのか、それともテレビにもクレームをしてきたポリコレ筋から起きたものなのか、それは分からない。

だが、シーズン2を見ると、そのような表層的な批判が全部的外れであるとわかる。

シーズン2では、村西監督の「光と影」の「影」の部分が描かれてく。

バブルの流れに乗って衛星放送への投資を行なって失敗したこと、金策も尽きて、人心も離れて行ったこと、ひどいハラスメントもあったことなど。

終盤には、黒木香の転落事故のエピソードもしっかりと描かれ、全く「美化」などされていないことが分かる。

シーズン2の目玉としては、そんな村西を支える存在となっていく乃木真梨子が登場し、これを恒松祐里が演じている。

恒松祐里は2020年の『タイトル、拒絶』で人気風俗嬢を演じたが、本格的なアダルト描写のある作品への登場はこれが最初となるということで注目されていた。

彼女のどこか超然とした雰囲気は、当時の女優陣の中にあって少々浮き気味だったと思われる乃木を演じるのにハマり役だったと思う。

ただ、村西との一対一での関係を描いたシーンは、シーズン1の黒木香を演じた森田望智の方がより濃密なものがあったという印象。

そして、村西が事実上この業界から「干された」後にも、業界自体は廃れることはないというある種の残酷さが最終盤で描かれる。

そこでは、出演女優に配慮したスタッフとして、マイク担当だった順子(伊藤沙莉)がシーンの変更を行う場面が出てくる。

別にフェミニズムに対して日和ったとかそういう話ではないと思うが、「男性から女性への暴力」的な一面的な見方を覆すものとしてこのシーンは重要だと思う(元ハコムスの神岡実希がここに出演しているのには驚いた)。

ということで、シーズン1がなんだかんだ「光」の部分を中心に描いて最終的にはアッパー系であったのとは対照的に、シーズン2はもうどうしようもなく蟻地獄にはまって落ちてく「影」の部分ならではのダウナー系になっている。

最後の最後に村西監督の「懲りない」様子が描かれるが、一世を風靡するようなわくわくする感覚はない。この辺のポジショニングは、2020年代のリアルだろうと思う。

ともあれ、主要人物を演じ切った俳優陣の演技は凄まじいし、新人で参加した役者も気迫が感じられた。また、カメオ出演で思いがけない人物が思いがけない場面で出てくるのも楽しみではある(個人的に一番ウケたのは友近)。

テレビが衰退し新型コロナウィルスで自滅していったこの時代に、「ネトフリなら楽しいものが作られる、観られる」という希望を与えてくれる象徴のような作品になったと思う。