入江悠監督の「あんのこと」を観に行った。
新宿では、TOHOシネマズでもピカデリーでも上映がなく、新宿武蔵野館のみ。
そして、この日・この回はなんと満席。
公開からまだ一週間もたっていないのに。
口コミでじわじわと評判が広まっているように思う。
内容は、2020年に新聞に掲載されたある少女の人生にインスパイアされたというもの。
恵まれない家庭環境、そこからの逃避、ドラッグ・売春という負の連鎖。
そんな彼女の更生に手を差し伸べる型破りな刑事。
更生施設を取材する記者。
狭い道を探るように進む中、光が見え始めたところに新型コロナが大きな影を落とす。
人生の歯車が回り出すのか狂うのかは紙一重、そんなリアリティから目が離せない。
善悪二元論も、エンタメ的な予定調和も、肩透かしも逃げも一切なし。
この作品こそ「悪は存在しない?」という深い問いかけに思えた。
河合優実は、多感で傷つきやすく、それでいて心優しい性根を持つ少女の多面性を見事に演じた。
更生に関わる刑事は、人情味があって、型破りで、清濁併せ吞んで、腹の底が見えない不気味さもあったが、佐藤二朗の演技力によって大いに説得力を持った。
稲垣吾郎の演じる記者は「正義」を追求する立場だが、派手さを抑えた渋い演技で感情移入を誘った。
観終わったあとに、身の回りの人との接し方や、ニュースの観方などを改めて深く考えさせられる作品。