人間らしい泥臭さ〜『すばらしき世界』(2021年、西川美和監督)

昨日ヤクザ映画『ヤクザと家族 The Family』を観に行ったばかりなのに、今日またヤクザ映画『すばらしき世界』。

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二日連続でヤクザ映画を観にいくのは、自分はヤクザだからというわけではなく、ヤクザが好きだからというわけでもなく、偶然にもこのタイミングで封切り公開された二作品を比べてみたいという、純粋な探究心からに他ならない。

さて『すばらしき世界』。

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こちらは、長い刑期を終えて出所した元ヤクザが、社会の中で生きにくさを感じながらもがいていくさまを描くもの。

主演の役所広司が、元ヤクザとしての熱血な気質や、義理人情にこだわって筋を通すのを基本にしながらも、時代の変化の中で自らの衰えを悟っていく様子や、周囲の人との繋がりにほだされる格好で円熟味をましている姿が印象的。

特に、「自分らしく生きるぞ」という気概を持ちながらも、あちこちでついていけない現実の中で折り合いをつけていくあたり、そこはかとなくリアリティを感じさせた。

彼の周りにいる弁護士夫妻、生活保護担当者の役人、近所のスーパーの店長、元妻、ヤクザ夫婦など、どの配役も類型的にならず、嘘っぽくもならない感じであった。助演のキャスティングの妙もあると思う。

中でも、作家志望のTVディレクター津乃田を演じた仲野太賀。

説得力と深みのある演技は卓越していて、風呂場でのシーンではこちらも泣かされるしかなかった。

彼でなければ成立しなかった場面かもしれないと思わされた。

「元ヤクザが出所して社会復帰する」というのは容易ではない。

まして今の「反社」に対する厳しい風潮の中では。

だが、そこで絶望するのではなく、わずかな繋がりを重ねていくことで、希望を見出すことは不可能ではない。

もしかしたら、この厳しい社会のなかで、そんな「すばらしき世界」を見つけられるかもしれない。

総じて、トントン拍子の“綺麗事”でもなく、逆に破滅まっしぐらの”滅びの美学“でもない、そんな人間の人間らしい泥臭さを描いた作品。

こういうの描くと、本当に西川美和監督はうまいと思う。

同時期に公開された『ヤクザと家族 The Family』と『すばらしき世界』をあえて比べてみると、「反社」時代におけるヤクザと社会の関わりという似たような題材を取り上げながらも、真逆のような対照的な作品になっている。

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これこそ監督の個性の違いなんだろうと思う。