『現代写真論―コンテンポラリーアートとしての写真のゆくえ』

世界の現代アーティストによる写真作品243点を収録した現代写真論。順番に、コンセプチュアル、コンストラクティッド、デッドパン、静物、私写真、記録写真、ポストモダン、マテリアルの8つのテーマを一章ずつ用いて説明している。

この分野でのテキストとしては『世界写真史』(監修・飯沢耕太郎)が標準的だろうが、同書は1990年代までしかカバーしておらず、インターネットやデジカメといった技術進歩と、それらを利用した作品についての言及がほとんどなされていない。本書は、2000年代の代表的な作家・作品についても触れられており、まさに現代写真について俯瞰するテキストとしては最良のものではないだうか。

著者のシャーロット・コットンはヴィクトリア&アルバート博物館(V&A)キュレーター等を経て現在はイギリス国立メディア博物館のクリエイティブディレクターを務めている。本書に登場する写真家が欧米中心に偏っているように感じる(アジアのアーティストの紹介が少ない)のはきっとそのせいだ。それでも荒木経惟に相応の文章が割かれていたり、最後の章には川内倫子の作品が登場したりと、日本のアーティストにも相応の目配りがされている。

各アーティストの作品は原則として1点のみ抜粋されているので、自分が気になるアーティストの情報は不足気味であると感じるかもしれない。だが、このような網羅的なテキストである以上、それは仕方のないことだ。さらに観たい、知りたいというアーティストについては、本書を手掛かりにして、ネットで検索するなり、写真集を買うなりすればよいのだ。本書はあくまで「入口」なのだから。

ちなみに、表紙の印象的な写真は、フィンランド出身でフランス在住のエリーナ・ブロゼラスの『シュヴァルさんの鼻』。これは決してお洒落写真というわけではなく、異国でのコミュニケーションに苦労する自身の姿がそこに写されているのだ(詳細は本書165ページ)。そう言われてみれば、彼女の瞳は不安を隠しきれていない。こういうものを写し出すから、写真は本当に怖いとも言える。

現代写真論

現代写真論