写真の役割を改めて考えさせられる―『写実画の凄い世界』

写実画を見たくなったらホキ美術館に行くと良い。日本の現代作家約50人による作品約350点を所収している。だが、ホキ美術館は外房線土気駅からバスということでアクセスが悪く、気軽には足を運べない。

となると手元に画集を置いておきたくなる。が、なぜか写実画家の画集には値ごろなものが少ない。島倉信之、高塚省吾、諏訪敦の3人だけでも合計一万円超えだ。

そんな中、この『写実画の凄い世界』が今年の5月に刊行され、じわじわと人気を博している。28名の画家の作品が紹介されていて1900円と破格。人物画中心のセレクションだが、それでも有名なアーティストはある程度網羅されている(それにしても、諏訪敦は入れるべきだと思う)。

一口に写実画といっても画家によって作風は異なるし、鑑賞する人にとって好みがあろう。この本の使い方としては、まずこれであたりを付けておいて、ホキ美術館に行くとか、個人画集を買うとか、複製画を買うとかするのが正しい。もちろん、余力のある人は複製画などと言わずに本物の絵を買ってもよい。昨今の「写実画ブーム」の盛り上がりを思えば、投資としても妙味のあるものになる可能性はある。

本作の掲載画家の中で、自分の好みにあっているのは、石黒賢一郎の「美化しすぎないことによる生々しさ」と三嶋哲也の「時代を超越するような普遍的な女性美」であると再認識。なかでも三嶋哲也の作品は、オルセー美術館の1階に展示されていそうな雰囲気をもっている(相当の絵の具フェチであると同時に、恐らくは尻フェチであろう)。

まるで写真のように精細な写実画の数々を見ていると、写真の役割が何なのか改めて考えざるを得ない。単なる入門書として片づけるには惜しい作品集。

写実画のすごい世界

写実画のすごい世界