単なる村上春樹評論ではない。この本の視座は、以下の一文に集約されている。
ビッグ・ブラザーとはウルトラマンであり、リトル・ピープルとは仮面ライダーである。
(『リトル・ピープルの時代』宇野 常寛、p.154)
ビッグ・ブラザーとリトル・ピープルは、村上春樹の『1Q84』が出所だが、宇野常寛は両者の概念をよく整理した上で、ウルトラマンと仮面ライダーの分析を試みている。なぜウルトラマンは時代錯誤となり、仮面ライダーが人気を博したのか。それは、ビッグ・ブラザーの時代が終わり、リトル・ピープルの時代が到来したことと鏡写しなのだ。
最後は、東日本大震災についても言及している。500ページを越える力作だ。平成ライダーの分析は著者の得意分野だと思うが、前作『ゼロ年代の想像力』よりさらに緻密になっており、本書の最大の読みどころだと思う。可能であれば、この勢いで『仮面ライダーオーズ/OOO』を論じたものもどこかで読みたい。
ちなみに本書の目次は以下の通り。
序章 「壁と卵」をめぐって―3・11から考える
第1章 ビッグ・ブラザーからリトル・ピープルへ
第2章 ヒーローと公共性
第3章 拡張現実の時代終章 石巻のリトル・ピープル
補論
補論は『ダークナイト』とAKB48と宇宙世紀(要はガンダムネタ)だが、『ダークナイト』論以外は分析としては今ひとつ感あり。それから、本論での「カオス*ラウンジ」への言及も、一連の事件前のこととはいえ、もう少し慎重でもよかった気がする。
- 作者: 宇野常寛
- 出版社/メーカー: 幻冬舎
- 発売日: 2011/07/28
- メディア: 単行本
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