『虐殺器官』の伊藤計劃の遺作となった『ハーモニー』(2009年ベストSF国内篇第1位)を読んだ。
- 作者: 伊藤計劃
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2008/12
- メディア: 単行本
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伊藤計劃は作中で人物にこう語らせる。
「権力が掌握しているのは、いまや生きることそのもの。そして生きることが引き起こすその展開全部。死っていうのはその権力の限界で、そんな権力から逃れることができる瞬間。死は存在のもっとも秘密の点。プライベートな点」
「誰かの言葉、それ」
「ミシェル・フーコー」
権力は生を管理する。それはなんのために。国家のため? まあ、それもある。でももっと根本的には人類という種族のために。権力に管理された健康を生きることは、自分の「生」と言えるのか。いつか権力によって淘汰されるかもしれないというのに。それならば、権力に抗って死を選ぶことを誰が否定できよう―
末期癌の病床で治療を受けながらこの作品を書いた伊藤は、自分の「生」をどのように意味付けたいと思っていたのだろうか。そんなことを想像すると胸が締め付けられる思いもする。
だが、きっと、彼の生きた意味は『虐殺器官』や『ハーモニー』を世に残したことにある。とすると、僕はいったい世に何を残せるのだろうか。この「生」の意味は何だろうか。