管理社会の恐怖を描いた古典は『1984年』とされる。だが、あの作品はどちらかというと「独裁政権下の全体主義社会」を描いたものだ。もし、現在の「自由を標榜した世界における管理」について描いた作品を求めるなら、フィリップ・K・ディックが残したこの『流れよわが涙、と警官は言った』こそが代表作ということになると思う。相応のリアリティと、適度なイマジネーションが、絶妙のバランスを保っている。

- 作者: フィリップ・K・ディック,友枝康子
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 1989/02
- メディア: 文庫
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まず、内容を「BOOK」データベースから紹介。
三千万人のファンから愛されるマルチタレント、ジェイスン・タヴァナーは、安ホテルの不潔なベッドで目覚めた。昨夜番組のあと、思わぬ事故で意識不明となり、ここに収容されたらしい。体は回復したものの、恐るべき事実が判明した。身分証明書が消えていたばかりか、国家の膨大なデータバンクから、彼に関する全記録が消え失せていたのだ。友人や恋人も、彼をまったく覚えていない。“存在しない男”となったタヴァナーは、警察から追われながらも、悪夢の突破口を必死に探し求めるが…。現実の裏側に潜む不条理を描くディック最大の問題作。キャンベル記念賞受賞。
カフカの長編のような不条理な社会の中に放り込まれた個人。そして、サイバーパンクにも通じるような「脳内=世界」という図式。何よりも、こうした設定を活かす人間臭い主人公。最後に、驚きの種明かし。その発想はなかったわ。
強烈に映像が見えてくるという点で、これは文句なしにSFの傑作だ。でも、願わくは映画化はしてほしくない。きっとがっかりするから*1。
*1:と書いたが、どうやら映画化されているようだ