ガルシア=マルケスの中編『予告された殺人の記録』を読んだ。以下、あまりネタバレのない感想。
- 作者: G.ガルシア=マルケス,野谷文昭
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1997/11/28
- メディア: 文庫
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1960年代はラテンアメリカ文学が世界的にブームになったのだが、どうしてコロンビアからこの時期にガルシア=マルケスのような作家が生まれたのかはやはりよく分からない。だが、1982年のノーベル文学賞の受賞を見るまでもなく、欧米先進国に与えたインパクトは大きかっただろうと想像する。
この作品は文字通り「予告された殺人」に関する記録の形式を取っているが、その構造は重層的だ。まるでポリフォニーの声楽のように。あちこちで鳴る音は一見すると混沌であるかのように聞こえるのだが、実はすべての響きが緻密に計算されている。だが、本来、現実というのは混沌としており、重層的なものだ。理路整然と語られる現実ほど胡散臭いものはない。あたかも官製の歴史の教科書のように。人の行動というものはかなり理不尽なものであり、真相というものはいつも明らかになどならない。見る人が変われば、見え方も全く変わる。
「三人称で書く」ということが、表現の自由度をここまで高めるのかと感心せざるを得ない。まるで実験的な映画みたいだ*1。読みながら、一人称の多い日本の現代小説の限界も見えてきてしまった。うーむ。
*1:『キサラギ』のアイデアもここが原点ではないかと言えなくもない