タイトルはロバート・ゴダード『一瞬の光のなかで』を思わせるが、こちらは38歳にして三菱系中核企業の人事課長というエリート(もちろん東大法学部卒)が主人公の小説。
- 作者: 白石一文
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 2003/08
- メディア: 文庫
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半ばビジネス小説でもあるのだが、これは城山三郎や高杉良とは違い、最終的には日本の政財界というものがいかに汚く、そしてそこに人生を賭けることがどれだけ無意味かということを描いている。途中の描写はまるで『課長 島耕作』のようだ。派閥あり、女性あり、陰謀あり。
主人公は激動の運命に翻弄された末、ある女性を守るためにすべてを投げ打つ覚悟を決める。といっても、この主人公も法外な退職金を間接的に強請っているようだし、政略結婚的に近づいた別の女性を汚した挙句に捨ててしまったりと、とてもではないが感情移入できるものではない。
そしてその守るべき女性というのが、幼少時からの家庭内暴力のためにアダルトチルドレンになっているメンヘラー。まあ、これはこれで「ビジネスエリート」とは対極の価値体系として提示したものだと思うのだが、文学的にはちょっと陳腐な気もする。結局それか、みたいな。
読み終わって『一瞬の光』というタイトルが何を指すのか考えてみた。主人公の三菱某社での輝かしい経歴を指すのかもしれないし、ヒロインと過ごした得難い時間のことを言っているのかもしれない。そこは読者の想像に委ねられているのだと思うが、まあ人生のどんな局面であろうと「一瞬の光」といえばいえなくもない。素晴らしい時間というものは、この世では未来永劫に長く続くことはないのだから。
蛇足ながら、表紙の写真はけっこう好み。