東京の中心は

皇居外苑の銀杏が黄色に色づいている。オフィスにいる間には季節を感じることはないが、少し外に出れば、こうして四季を楽しむことができる。いまの時期、夜になればクリスマスのイルミネーションを浴びて、少し早めの12月を感じることもできる。

ここはオフィス街であると同時に、商業地でもあり、観光地でもある。何台もの観光バスが目の前の道路を横切っていく。行く先は、六本木、お台場、新宿、浅草ときっとさまざまなんだろう。でも、少なくない観光バスが皇居外苑に止まっている。皇居を見物する人もかなりいるんだろう。そして皇居には確かにわざわざ見物するだけの価値があると思う。

皇居。これだけの広大な土地が東京の中心部にあるというのは、機能という面では不思議な感じがする。憲法では天皇は国の象徴であるということになっているけれど。

東京には、たしかに中心は存在する。しかしその中心は空虚である。

これは、1966年に来日したロラン・バルトが『表徴の帝国』に残した秀逸なエクリチュール。フランス人であるバルトが、皇居と空虚の発音の相似を知っていたとは思えないが、実に言いえて妙だと思う。東京の鉄道路線図や道路地図等、どの地図を見ても不自然に路線が迂回して、中心部がぽっかりと空いているのだから*1。考えて見れば、神輿にも鍋料理にも中心と呼べるものはなく、この「中心のなさ」というのは、日本の文化の特徴の一つなのかもしれない。中心がないと居心地の悪さを感じる西欧に対して、中心がなくとも居心地の悪さを感じない日本、というか。

個人的には、西の方に展開した現在の東京であえて中心を探すとすれば、皇居周辺ではなく、むしろ新宿になるのではないかと思っている。商業、文化、交通、建造物などの点では、いい線行っているのではないか。それなりに広大な新宿御苑もあるし。でも、銀杏並木が美しい神宮外苑の通りは、ギリギリで港区だったりするのが、ちょっと惜しい…*2

表徴の帝国 (ちくま学芸文庫)

表徴の帝国 (ちくま学芸文庫)

>teraさん

サンキュ。
内容と関係あってもなくても、いつでも何でも書いてほしい。
というか、結構関係ある内容を書いてくれているように思う。
東京の値段=魅せられた人の数、っていうのは分かる気がする。
僕自身も、東京に魅了されてここにいるわけで(まあ生まれたのも東京だけど)。
でも、ここでは何でも手に入るようでいて、実は肝心なものは何も手に入らないのかもしれない、と疑ってもいる。レノン=マッカートニー流に言えば、"Money can't buy me love"というか。

*1:東京メトロでは、大手町や飯田橋を無理矢理に中心に仕立てようと苦闘しているように見える

*2:絵画館や神宮球場は新宿区内