死ぬまで青春は終わらない〜『あの頃。』(2021年、今泉力哉監督)

コロナ時代になって自宅でネトフリが捗っているけれども、それはそれとして、やはり劇場に新作を観にいくのはやめられない。

ハリウッド映画が軒並み延期となる中で、意外にも邦画の新作は豊作になっている。

ということで、今週4回目の映画館。

好きな監督の新作ラッシュだから仕方ない。しかも外せないものばかり。

さすがに「頭おかC」というという感じかもしれないが、映画館で映画観まくって腰が痛くなることはあっても、頭おかしくなることはないのでヨシ!

さて、今日は今泉力哉監督の『あの頃。』

phantom-film.com


2000年代のハロプロのファンに題材を採ったもの。

松坂桃李がアイドルヲタクを演じるということで話題にもなっているが、どんな描かれ方をしているのか気になって早速行ってきた。

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劇場は当時(から)のアイドルファン・ハロプロファンだったような年配の男性が多め。

そんな中で、ともすると偏見をもって描かれたり、中の人に近いスタッフからは自虐をこめられたり、あるいは世間に対する強がりが過ぎて過剰に美化されたりされがちな「ヲタク界隈」。

そこにある、世代や立場を軽々と越えたヲタクの同志の連帯感や熱量をしっかりと捉えて、愛情とユーモアをもって今泉力哉監督は描いてくれた。

信頼しかない。

絶対的に尊い「推し」を前にして、いろんなヲタクが年齢や立場関係なく、「好き」を持ち寄りワイワイガヤガヤと盛り上がるのは、ある意味で「青春」だといって良い。

そういうヲタクの描き方として過去の作品で似ているものを探すと『キサラギ』に近いものも感じるが、あれが「追悼で集まったファン」という過去を振り返るものであったのに対して、『あの頃。』は、まさに「今が最高」という感じに満ちているのが良い。

主演の松坂桃李はこのヲタク役で嫌味や気取りのない姿で新境地を開き、また準主演とも言える仲野太賀はヲタクならではのメンドクサイ感じが実にリアルだった。

そして、当時の松浦亜弥あやや)を演じたBEYOOOOONDSの山崎夢羽の再現度も高く、この辺のこだわりに監督や関係者の愛情を感じざるをえなかった。

ハロプロの盛り上がったゼロ年代も遠くなり、その後ライブアイドルブームが花ひらいた10年代も、新型コロナウィルスのせいで、残念ながら過去のものになった。

だが、ヲタクはこれからも楽しいものを探して、熱量を注いでいくのだろう。いつか死がヲタクを止めるまで。

死ぬまで青春は終わらない、それこそがヲタクのヲタクたる所以なのだから。

人間らしい泥臭さ〜『すばらしき世界』(2021年、西川美和監督)

昨日ヤクザ映画『ヤクザと家族 The Family』を観に行ったばかりなのに、今日またヤクザ映画『すばらしき世界』。

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二日連続でヤクザ映画を観にいくのは、自分はヤクザだからというわけではなく、ヤクザが好きだからというわけでもなく、偶然にもこのタイミングで封切り公開された二作品を比べてみたいという、純粋な探究心からに他ならない。

さて『すばらしき世界』。

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こちらは、長い刑期を終えて出所した元ヤクザが、社会の中で生きにくさを感じながらもがいていくさまを描くもの。

主演の役所広司が、元ヤクザとしての熱血な気質や、義理人情にこだわって筋を通すのを基本にしながらも、時代の変化の中で自らの衰えを悟っていく様子や、周囲の人との繋がりにほだされる格好で円熟味をましている姿が印象的。

特に、「自分らしく生きるぞ」という気概を持ちながらも、あちこちでついていけない現実の中で折り合いをつけていくあたり、そこはかとなくリアリティを感じさせた。

彼の周りにいる弁護士夫妻、生活保護担当者の役人、近所のスーパーの店長、元妻、ヤクザ夫婦など、どの配役も類型的にならず、嘘っぽくもならない感じであった。助演のキャスティングの妙もあると思う。

中でも、作家志望のTVディレクター津乃田を演じた仲野太賀。

説得力と深みのある演技は卓越していて、風呂場でのシーンではこちらも泣かされるしかなかった。

彼でなければ成立しなかった場面かもしれないと思わされた。

「元ヤクザが出所して社会復帰する」というのは容易ではない。

まして今の「反社」に対する厳しい風潮の中では。

だが、そこで絶望するのではなく、わずかな繋がりを重ねていくことで、希望を見出すことは不可能ではない。

もしかしたら、この厳しい社会のなかで、そんな「すばらしき世界」を見つけられるかもしれない。

総じて、トントン拍子の“綺麗事”でもなく、逆に破滅まっしぐらの”滅びの美学“でもない、そんな人間の人間らしい泥臭さを描いた作品。

こういうの描くと、本当に西川美和監督はうまいと思う。

同時期に公開された『ヤクザと家族 The Family』と『すばらしき世界』をあえて比べてみると、「反社」時代におけるヤクザと社会の関わりという似たような題材を取り上げながらも、真逆のような対照的な作品になっている。

滅びに向かって真っ直ぐに突き進む猪突猛進物語を見せる藤井道人

善と悪の間にいる人間の世界の泥でもがく中に希望を描く西川美和

これこそ監督の個性の違いなんだろうと思う。

破滅と滅びの美学〜『ヤクザと家族 The Family』(2021年、藤井道人監督)

去年の日本アカデミー賞で三冠を取った藤井道人監督の最新作『ヤクザと家族 The Family』。

www.yakuzatokazoku.com

基本的にヤクザ映画は観ないんだけれども、いま自分が最も注目しているクリエーターの常田大希率いるmillennium paradeが主題歌「FAMILIA」を提供しているということで、観に行ってきた。

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どうせヤクザ映画観るなら歌舞伎町だろということで、新宿TOHOシネマズを選んだけれども、この日はレディーズデイということもあって、女性が多く、中には極妻風の女性を伴ったその筋風の人たちの集団も見かけた(微笑ましい光景)。

内容は、任侠を美化するというよりは、世の中が変わっていく中で時代遅れとなった「ヤクザ」の虚しさを描いたもの。

主演は綾野剛であるが、怒り、悲しみ、弱さ、強さを全部演じ切っていて、俳優として素晴らしいと実感。

また、組の親分を演じた舘ひろしもさすがの存在感と凄み。

絶頂期のオーラから、晩年の弱さまでを説得力のある人間味をもって演じた。

若手では磯村勇斗のクールさ、小宮山莉渚の透明感が印象に残った。

全体的に、破滅に向かってまっしぐらという感じのプロットで、ちょっと理が勝ちすぎている嫌いはなきにしもあらずだけれども、行き場をどんどん失って破滅に向かわざるをえない現在のヤクザの悲哀、その中で「血で血を洗う」連鎖ではない形で命を捧げることの意味を感じずにはいられなかった。

ラストに流れるミレパの「FAMILIA」は、テーマと完全にシンクロしていて余韻を残す。

そういう意味では、破滅と滅びの美学を徹底的に貫いた作品と言えるかもしれない。