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毒虫ではなく―本谷有紀子『異種婚姻譚』

第154回芥川賞を受賞した本谷有紀子の『異種婚姻譚』。


「ある日、自分の顔が旦那の顔とそっくりになっていることに気が付いた。」という書き出しは、「ある朝グレゴールザムザが不安な夢からふと覚めてみると、ベッドのなかで自分の姿が一匹のとてつもなく大きな毒虫に変わってしまっているのに気がついた。」というカフカの『変身』を思わせる。

カフカの『変身』では、ザムザが虫になるという不条理を通じて家族の苦悩を浮き彫りにするが、この『異種婚姻譚』では、主人公の変容を通じて、夫婦の本質とは何かについて想いを巡らせていく。

作家の性別で作品を語るのは好きじゃないんだけれども、とりとめのないぐるぐる循環する感じはいかにも「女性的」であるし、旦那に対する生理的な嫌悪の描写についても「女性らしい」と言わざるをえない。

考えてみれば、夫婦というのは他人であるわけで、それが連れ添うことで「家族」になっていくわけだけれども、似て行くものなのか、とか、似て行くのがいいことなのか、とか、まあ正解のない問いはずっと続いていくのかもしれない。

作品では他の夫婦の話や、ペットの話も挿入されているが、プロットとして世界を広げている感じも乏しく、深みを与えているというようにも受け取れなかった。どちらかというと散漫になった印象。

個人的には、もう少し主人公夫婦の関係の変容とか、カタリシス的なものに期待しつつ読んでいたわけだけれども、最後はかなり拍子抜け。

正直、これが芥川賞というのはピンと来なかったけど、何かのメタファーだと深読みして評価するべき作品なのかもしれない。

異類婚姻譚

異類婚姻譚