朝日新聞の詭弁

朝日新聞が、不法入国者の国外退去を否定する社説を掲載した。法治国家のメディアとは思えない主張に驚いた。法の執行を柔軟に行うことが「英断」とは、私には決して思えない。政府がそんな裁量を振るう国家は信用ならない。

社説の後半で不法残留外国人が11万人であることに言及しながら、「彼女の望みをかなえることが、日本社会に不利益を及ぼすとは思えない」というのは論理の断絶がある。あるべき議論としては「彼女の望みをかなえれば、11万人の不法残留外国人の望みをかなえることになり、今後日本に入国する可能性がある数百万人(あるいはもっと多く)の入国にも道を開くことになるが、それが日本社会に不利益をもたらる恐れは大いにある」というべきだろう。
朝日新聞としては、外国人の不法入国を容認する方向で、意図的な詭弁を社説で行っているのではないかとさえ思われる。

言論の自由の下ではこのような主張も自由ではあるが、国民の選択の自由の下ではおかしな主張は淘汰されることになる。その結果、おかしな主張を行うメディアも淘汰されることになるだろう。

以下、参考まで朝日の社説の全文を転載。

フィリピン家族―森法相はここで英断を

一家は埼玉県蕨市で暮らしている。36歳の夫は、内装解体会社で後輩に仕事を教える立場になった。38歳の妻は専業主婦。13歳の娘は、音楽の部活動に打ち込む中学1年生だ。
どこにでもいそうな3人家族。フィリピン人のカルデロン一家である。
一家は17日に強制送還されるかもしれない。両親が90年代前半に、それぞれ偽造旅券を使って入国したからだ。
妻は06年に不法在留で逮捕され、執行猶予付きの有罪となった。昨年9月には一家の国外退去処分が確定した。
退去処分になっても、家族の事情や人道的配慮から法相が滞在を認める制度がある。この在留特別許可を一家は求めたが、認められなかった。
法務省の姿勢はこうだ。極めて悪質な不正入国だ。十数年滞在した事実はあるが、ほかの不法滞在者への影響を考えると厳格な処分で臨むべきだ。裁判所も退去処分を認めている。
法律論はその通りだ。だが、だからといって子どもの幸福をないがしろにしていいわけはない。
彼女は日本で生まれ育ち、日本語しか分からない。「母国は日本。家族とも友だちとも離れたくない」という。思春期のごく普通の女の子だ。
同じようなケースで、子どもが中学生以上だった場合には在留が認められたことがある。「処分が出た時に長女は小学生。中学生になったのは訴訟で争ったからで、すぐに帰国した人との公平を欠く」という法務省の説明に、説得力はあるだろうか。
法務省も、近所の親類に預けることを前提に長女だけに在留許可を出し、両親が会いに来るときは再入国を認めるとの案も示した。そこまで配慮できるのなら、森法相はいっそ一家全員に在留特別許可は出せないものか。
彼女の望みをかなえることが、日本社会に不利益を及ぼすとは思えない。
長女の学校の友人や地域住民らからは、一家の残留を求める嘆願書が約2万人分も集まっているという。蕨市議会は「長女の成長と学習を保障する見地から一家の在留特別許可を求める」との意見書を採択した。
一家はすでに地域社会を構成する隣人として認められ、職場や地域に十分貢献している。一人娘は将来、日本を支える一人になってくれるはずだ。
日本に不法に残留する外国人は約11万人とされる。日本社会に溶け込み、いまさら帰国しても生計が立たない人々は多いだろう。在留特別許可も年1万件前後認められている。
日本社会ではすでに外国人が大きな担い手になっている。今回のようなケースはこれからも起きるだろう。いまの入管行政でそれに対応できるのか。社会の一員として認めるべき外国人は速やかに救済する。そんな審査システムをつくることが検討されていい。