教科書のようだ〜『おくりびと』

おくりびと』を観た。以下ネタバレ。

おくりびと [DVD]

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この映画の一番の見所は、本木雅弘の所作の美しさだ。納棺であっても、チェロの演奏であっても、彼は美しい。腕の動きとか、指裁きとか、そういうディテールはもちろん、たたずまい全体が恐ろしく絵になっている。これだけでも観る価値がある、とも言えるし、観るべきところはそこしかないのではないか、とも言える。

もちろん、小山薫堂の脚本は全体的に過不足なくまとまっている、滝田洋二郎監督の自己主張しすぎないバランスの取れた作品造りには円熟味さえ感じる。だが、アートとしてはあまりに優等生的で、すべてのパーツがぴたっと収まりすぎて面白みに欠ける。クライマックスで主人公に納棺される父が石を握り締めているところなど「出来すぎ」ではないか。なんだか教科書に載っているような「お話」のようで、若干の押し付けがましさを感じてしまった。

「生」と「死」について考えさせられたという評判も聞く。おかしな話だ。日本では毎日どこかで納棺が行われているし、親族を亡くせばその光景を目の当たりにするはずだ。日本の葬儀の風習に馴染みのない外国人にとって、納棺の場面がある種のエキゾチックな異国趣味をもって評価されるのは分かる。だが、そのような外国の評価を日本が逆輸入する形でこの映画を賞賛することには違和感を禁じえない。我々は現実の納棺の場面で、より生々しく死を見つめているはずだ、と。

ともかく、本木雅弘を筆頭に俳優陣は皆良かった。不思議な存在感と説得力を見せる山崎努。人生の年輪を感じさせた笹野高史。そして軽薄さと身勝手さも計算された役作りではないかと思わせてしまう広末涼子。他にもいちいち名前を挙げきれないが、この作品の登場人物としあるべき場所であるべき演技を行っていて、観ていて気持ち良かった。その点は十分に評価できる。